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屋根にあたった鎖は、とくに音もたてずに、また僕の手に戻った。
ただ鎖を振る。僕はそれしかできなかったけれど、老婆の持つ壷をたたき割ることができた。街灯の明かりが陶片に反射する。
「アークエンジェル」
その声に続いて、新しい天使が現れる。雷のように夜空を天使が舞った。
絶叫。
それでも町は静まり返っている。普通の人には、この音も聞こえていないのだろうか。僕は耳をふさいだまま、二人の天使が並ぶ道路に降りた。
老婆は吊り上げられて揺れる鎖の中で、もがきながら、地面に唾を吐く。その不気味にぎらつく目がこちらを向いた。僕はうつむいて、歯を食いしばる。
「天界にすべてを支配された暮らしは、どうだったね? かわいそうに、両親に無視されて、誰からも愛されない。それは両親だけの責任じゃない。神が不幸にしたんだ。つまり天界、そして、そこにいる天使たちのせいだよ。また魂をしばって、天使なんて召使いにすればいい。野放しにしておけば、ろくなことをしないからね」
老婆はすがるように、僕の目を見る。
悪魔に惑わされちゃだめだ。僕は首を振って、天使の後ろへ下がる。
「人類は神の下に平等です。あなたが望む天界の破壊は、自由ではなく混沌のみをもたらします」
天使は高潔な笑みを崩さずに鎖を引っ張り、捕らえた老婆を繊細な片手で掴んだ。
「わたしは、ただ自由が欲しかった」
老婆の叫びは、誰にも聞かれないまま町に消えていった。
天使が老婆を投げ下ろすと、道路が割れ、柘榴のように赤黒い炎が漏れる穴が開いた。その裂け目は、老婆を飲み込み、何もなかったかのように閉じる。
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