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「老女は、病気で亡くなった妹を迎えに来た天使を見て、天界を恨みました。話すこともできないまま、永遠の別れを迎えるのはひどい、と」
僕は老婆が埋められた道路に目を向ける。そんな人を、天使は地の底へ送った。
「たしかに、老女は社会的地位も低く、恵まれない暮らしをしていたかもしれません。それでも、昔は老女に手を差し伸べる人さえもいたのです。憐れみなんていらないと、すべて断ってしまったのは彼女なのに、どうして、いまさら自由を望むのでしょう。なぜ、この満ち足りた世界に満足できないのでしょう。神の使いとして、私は純粋に悲しく思います」
天使はつぶらな目を瞑り、ゆっくりと息をついた。
「神は、この世界に間違いをつくられたのでしょうか。神は世界ができたとき、天使にこう言われました。世界は素晴らしく、これを維持することが天界の使命なのだ、と。この仕事に疑問を持ったことなどなかったのですが、悪魔となる人があまりにも多すぎます」
喉が苦しくなって、呼吸が早まっていくのを感じる。天使が優しく感じられて、その伏せられた目を見つめた。息をひそめて、天使の言葉を待つ。
「あなたは、まだ間に合う。神は御許へ呼ばれましたが、急ぐ必要はないのかもしれません。ひとつだけ、奇跡を起こしてあげましょう」
答える間も、お礼を言う間もなく、僕は見慣れた部屋にいた。床には、砕けた陶器のかけら。
僕の背中には、何色の羽もない。
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