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老婆はスーツの男から離れて、空中へ飛びあがった。老婆とは思えない、軽やかな身のこなし。その背には僕と同じ形の、けれど黒い翼が生えていた。僕に壷を渡したときと同じ声は、逃げ出したくなるような感覚も伴っている。
老婆はどこからか取り出した、炎をおびた大剣を天使に投げつけた。不意にその炎がまぶしく感じられ、剣がどこにあるのか見えなくなった。
刺さる。
とっさに道路へ降りて、息をつく。あれはただの人じゃない。天使の言った悪魔という言葉が、やっと現実味を帯びて感じられた。大剣が地面に落ちた音はしない。炎も、剣も、幻だったのだろうか。
いつの間にか町は真っ暗。心臓の音がうるさい。街灯のまわりしか見えないのに、僕はあたりを見回した。
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