君と二人で育てたい

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「この子、二人で育てない?」  付き合ってもうすぐ4年。  今日は彼の家に遊びにきていた。 「わんちゃん?」 「うん」  その子は小さな体をぷるぷる震わせてこちらを見上げている。 「この子どうしたの?」 「家の前にちょこんて寝てた」 「寝てた?」  今は起きてるけど寝顔もかわいいんだろうな、と思うような愛くるしい顔立ち。 「捨てられたのかな?」 「いや、この毛並みの感じからすると、大事にされてるんだと思う」 「あなた、犬に詳しいの?」 「昔飼ってた」  そう言ってわんちゃんの頭を撫でる。わんちゃんは気持ちよさげに手のひらにすりすり。 「じゃあ何で?」 「事情は分からないけど、多分飼い主とはぐれちゃったんだと思う」 「じゃあ、飼い主を見つけてあげないと」 「そうしたいけど、手がかりが……。あ、でも首輪に名前が書いてるね」  首輪を見ると、小さく『ココ』と書かれていた。 「ココちゃんか、かわいい名前」 「だからさ、飼い主が見つかるまで、僕たちで育てようよ」 「育てようっていっても、ここに住まわせるんなら、あなたがほとんど面倒見ることになるけど……。私のうちじゃ飼えないし」 「いや、だから……」  その時。  ピンポーンと音がした。彼は手が塞がってるので私がドアを開けた。  帽子を被った小学生くらいの男の子が見上げてくる。 「すみませーん、こんな小さいわんちゃん知りませんか?」 「ワンワン!」 「あ、ココ!」  ココちゃんが彼の手からするりと抜けて、男の子目掛けて走ってきた。男の子は両手を広げて胸に飛び込むココちゃんを抱き止める。 「あなたのわんちゃんだったのね」 「うん。散歩中に、近くで大きな音がしてさ、びっくりしちゃって逃げ出しちゃったの」  彼もドアまで来た。 「そうか。見つかってよかった。でも、もう離しちゃダメだよ?」 「はい。お兄さんお姉さんありがとう」  男の子はお礼を言ってわんちゃんを連れて去っていった。  隣に立つ彼に言う。 「よかったわね、飼い主見つかって」 「あ、うん」  彼はばつの悪そうな顔をする。 「あ、そういえばさっき何を言いかけてたの?」 「あ、いや、何でもないよ……」  あはは、と誤魔化すようにして笑う彼、何か変。 「何でもないって顔じゃないでしょ」 「いや、いいんだ。やっぱりこういうのは、自分でちゃんとしなきゃいけないし」 「はあ?」  その数日後、彼からプロポーズされた。
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