When I was with you

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* 「冬人(ふゆひと)春希(はるき)はもう昇降口にいるはず」 「四人で帰るなんて、ホント久しぶりだねー!」 「三年になってからは、私も春希くんも毎日予備校だったしね」 「うん、二人ともほんと受験頑張ったよね! 尊敬しかないよ」  千夏とあきはもともと友達ではなかった。 進路のコースも違うので授業はもちろん日々の生活でも接点はなく、千夏の恋人の親友の彼女として紹介されたのがあきだった。 千夏の彼氏である冬人と、その親友の春希、そしてその彼女のあき。 二年の頃に春希があきと付き合いだしてからは、とにかく冬人と春希は仲がよかったものだから千夏の好き嫌い関係なく、放課後になにかと四人でつるむことが多くなった。 あきの無邪気な明るさは、千夏はどちらかというと最初、苦手だった。今となっては懐かしい感想だ。 「千夏っちゃんはいつ東京行くの?」 「私はギリギリまでこっちにいるつもり。春希くんは? いつ出発?」  千夏と春希は、それぞれ東京の大学への進学が決まっている。 四月からあきは地元の専門学校に、冬人はスポーツ推薦で同じく地元の大学に進む。 「春希はもう明後日には行くんだって。……家とかまだ決まってないから」  あきは千夏の方を見ることなく、誰に宛てるでもない笑顔で前を見てそう言った。 「ずいぶん早く……」 「あ、お待たせー!」  言い終わらないうちに昇降口のドアの外に男子二人を見つけたあきが、それまでにも増して明るい調子で駆け寄る。 「はーるき! 待った!?」  あきは、あっという間に上履きからローファーに履き替えたかと思うと、寒空の下で待っていた春希の腕にするりと自分の腕を絡ませる。 「そんなくっつくなって」  春希はうざったそうに少し体を退いたものの、あきの右手を自身の手と一緒に左ポケットにしまうのを千夏はちゃんと見た。 その光景にほっとしつつ、ほっとした分だけ胸が痛む。  あきがクリスマスにプレゼントした制服のネクタイの色に合わせたえんじ色のマフラーが春希の首に巻かれている。 校内ではイケメンで通っている春希と並んで歩く幸せそうなあきの後姿を、千夏は何度見てきたことだろう。 あきの人柄か、春希の性格か。春も夏も秋も冬も、いつの季節も、いつのときも、仲良く、幸せそうな二人だった。  千夏がのろのろと外に出ると、冬人が冷たいだろうにコンクリートの階段に座っていた。 その背中に声をかける。 「冷えるよ?」 「遅ぇんだよー。アイツらもう先行ったし」 「ちょっと感傷にひたってた」 「そういうエモいの、らしくねーじゃん」  冬人も、いつもと違わないいたずらな笑い顔だった。 似ても似つかないはずなのに、さっきのあきの顔とどこか重なる。 「……エモくもなるよ、さすがに」  残して行く者と残される者。 男と女。  どちらの気持ちもどちらの辛さも、わかる。 わかるのに、どうすればいいのかはわからない。  たとえば、彼氏彼女のために人生設計を変更したり、夢を諦めるなんてばかばかしいと思う。所詮高校生の恋愛。この恋が一生続くわけはないのだから。 でも。それでも。 「ホラ、早く行こうぜ」  そう言って差し出された冬人の手に、千夏は自分の手を重ねた。 親には高校生らしい節度のある付き合いをしなさいと言われている。 高校生なんて大人からすれば子供でしかないだろうし、若さを盾にしている自覚もある。 けれど、精一杯生きているつもりの『今』が終わっていくのが、千夏は怖かった。
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