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高校生のカップルとすれ違った。 楽しそうな彼らを、他人事のように微笑ましく思ってしまうのは、もう自分があの頃とは違うと思うからだろうか。 必要以上にしっかり繋がれた彼らの手に、十年前の自分を思い出す。 ただ『今』を必死に生きていた、あの頃。 明日は見えなかった。未来も見えなかった。 けれど昨日の続きに今日があるように、未来はただいつも延長線上にあるだけだ。 全てが変わっても、気持ちが変わらなければ未来に繋がる可能性はある。 たとえ、距離が離れていても。「千夏、何考えてんの?」
そう言って差し出された手は、あの頃と変わらない。
「ちょっと感傷的に」
「なんだ? あれか、マリッジブルー?」
「違う。……いやまあ似たようなものか? 高校を卒業するときのことをね、なぜか思い出しちゃった」
千夏は冬人の手を取った。 はずかしげもなく、小さな世界で、ままごとのように手を繋げた十年前。 つなぎ方は変わってしまったけれど、明日、私たちは結婚する。
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