2.最愛の天使

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2.最愛の天使

 私は高校三年生の時、国立大学受験クラスでした。二学期が終わって冬休みに入っていましたが、その日は18時まで国語の補講がありました。  前半は古文を、後半は漢文を解きました。漢文に入る前に5分の休憩が与えられ、この時間に私は先生のタブレット画面と連動したスクリーンを眺めていました。三毛猫のスライドショ―という、猫好きにはたまらない至福の時間でした。  補講が終わると、私は教壇に立っていた先生のところに駆け寄りました。 「三毛猫、可愛いですね。うちの子も可愛いですよ」  私は先生の猫を可愛いと言いつつも、自分の愛犬が一番可愛いと確信しています。私のスマホに入っている膨大な写真の九割は愛犬でした。この時こそ人に見せるのだと思いましたが、嫌な胸騒ぎがして、私は開きかけたスマホを鞄の中にしまいました。  18時40分に、私の母から一通のメッセージがきました。 『いつ帰る?』  私はあと数分で自宅に着く距離にいましたから、無視して歩きました。数秒後に、またスマホが震えました。 『私はもう家に着いたんだけど』  私は母からの真意(しんい)の読み取りにくい文章に苛つきましたが、先ほどの胸騒ぎがどうにも気味悪く、早く帰ろう、と足を速めました。私の母はいつも19時直前に仕事から帰ってきていました。父はもっと遅いです。私はいつも一番乗りで帰宅するのですが、この日に限っては先生と雑談をしていましたから、母が先に帰宅したようです。
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