2.最愛の天使

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 私は荒い息遣いで玄関の戸を開けました。 「リビングにきて、毛布めくって」  姿が見えない声の主の言葉に、私の手はかじかんだように動かなくなり、玄関の戸を震える手で閉めることになりました。 「えぇ? なにー?」  微笑を精一杯顔に張り付けてリビングに入った私は、ゆっくりと母の顔を見ました。 「天使(てんし)? 天使ちゃんが、どうしたの……」  首を絞められたような変に高い声が自分の声であると気付いた時には、私の視界はゆらゆら揺れていました。母の顔が赤く、鼻の穴がヒク、ヒク、と膨らんでいたのを覚えています。  冷たい床に腰を下ろした私が毛布を慎重に持ち上げると、世界一可愛い天使が丸くなっていました。  高校卒業を控えた寒い夜、私は天使を抱きしめました。手の甲でゆっくり撫でると、あたたかくて、いつまでも触っていたいほどに心地良いです。薄く灰色がかった美しい毛並みに、長い睫毛。収められている瞳は、星の如く澄んでいました。うっとりとした眠りを誘う、癖になる香りがずっと、忘れられません。私の最愛の天使、私の宝物。誰にも渡したくない大切な、何物にも代えられない天使です。
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