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3.片翼の天使
進学先が確実に決まっていた私は、昼に起床という自堕落な生活を送っておりましたから、布団の中でだらだらしていました。両親は仕事で朝から夜遅くまで帰ってきません。私は愛しい名前を呼びました。
「天使」
もう一度小さく呼びました。
「天使」
犬の鳴き声がしました。天使ではありません。家にはもう一匹犬がいるのです。私は愛しい名前を呼ぶのをやめて、布団の中でじっとしていました。ケージの揺れる耳障りな音が止みましたが、天使がいない世界で、私がベッドから起き上がることは意味をなしません。
私は布団の隙間からスマホに手を伸ばしました。昔馴染みのグループトークにメッセージがきていたのです。
『こっちに帰ってきたけど誰か遊ばん?』
来夢からでした。私の一つ上で、関西の大学に進学したと聞いております。懐かしい人物からのメッセージに私の心は踊り、私はすぐに来夢との個人トークにメッセージを送りました。
『私、暇ですよ』
私はドキドキしたままスマホの画面を見つめていました。既読が付く瞬間を心待ちにしていたのです。
『ふ。家おいで』
来夢は昔から冗談を言う人でした。相変わらずノリがいい来夢のおかげで、私は少し寂しさが紛れました。
『いいですよ。来夢くんのこと好きでしたし』
『え、嬉しい』
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