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4.墜落の天使
歌舞伎町に足を踏み入れた私は、右も左も分からない状態でした。なんとなく思い立って、一人で新幹線に乗ってきました。歌舞伎町の夜の姿は事前に把握していましたから、夜とは異なる昼の歌舞伎町に不思議な心地でした。
雑多とした道を歩いていますと、陽気な……? にこやかで人当たりの良い老人が肩を叩いてきました。全く知らない人でしたが、老人は昔馴染みであるかのように喋っていました。
「若草!」
私は突然、黒髪の少女に手を引かれました。あまりにも急でしたから、掴まれた腕越しに伝わる温もりを感じたままついていきました。少女の歩き方は歌舞伎町に馴染んでおり、この人に従えば良いのだという安心感がありました。
私は少女に手を引かれるまま建物に入りました。
「ちょっと待ってください、カラオケは、苦手なんです。音痴なんです」
そう言えたら良かったのですが、私は口を薄く開いただけでした。エレベーターの中はとても気まずく、何かを言おうとしたのですが、少女の凛々しい後ろ姿に気圧されて黙ったままでした。
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