時をかける日記帳

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 信じられない! 13年後の私は先輩と結婚し一緒に暮らしている。それも、こんなにスタイリッシュで洗練された家に住み、彼は朝食を作ってくれるくらい優しくて。  この世のものとは思えないほどの幸福に涙腺が滲んだ瞬間、先輩は訝しげに言った。 「……やっぱり嫌味? 安心しろよ。ちゃんと離婚届出すから」 「…………え……?」  幸福から一転、奈落の底に突き落とされたような衝撃を味わう。 「離婚届って……」 「もうサインしてあるから」  突き放すような言葉に、勢いよく立ち上がる。 「ちょっと待って! 嫌! 離婚なんて絶対しない!」  せっかく大好きな先輩と結婚できたのに、こんな結末あんまりだ。 「お願いします! 嫌なところあったなら直すから! お願いだから離婚しないで……」  じわりと涙を滲ませる私を、彼は驚いた顔で見つめる。 「……何言ってるの。みのりから離婚したいって言ったんだろ」 「え!?」  私が先輩と離婚したいなんて、天と地がひっくり返ってもあり得ない。 「好きな人ができたって、この前言ってたじゃん」 「………………」  ……13年後の私、大馬鹿野郎!  何浮気してるの? 最愛の先輩を裏切るなんてもってのほかだ。 「嘘です! 大嘘! 他に好きな人なんていません!」  即答で絶叫するも、まだ彼は疑いの目で私を見る。 「でも、最近みのり待ち合わせしてもドタキャンするし、一人でこそこそ出かけて行くし。あんなに好きだった料理もしなくなった」  どうして私は、そんなに酷いことができたのだろう。結婚が当たり前になって、彼との関係に胡座をかいて初心を忘れてしまったってこと?  自分の愚かさに打ち拉がれて、ショックで血の気が引いていく。 「今まで本当にごめんなさい。私、心を入れ替えるから。だから離婚しないで」  深々と頭を下げる。頭上から、優しい声が響いた。 「……わかった。少し様子を見よう」  とりあえず離婚が免れたことに、首の皮一枚繋がった心境で安堵する。  ……絶対に二度と彼を裏切ったりはしない。そう誓って、私はこの世界で生きていくことを覚悟した。
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