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やり直そう。彼の温かい言葉通り、私達は二人寄り添って生活を営んだ。
何気ない日々を大切に味わうようにして、お互いを思いやって。
たくさんの場所に出かけ、何度も食事を共にして。
彼と刻んできた歴史を飛び越えて未来に来てしまったことが惜しいけれど、それでも目の前に先輩が存在しているだけで幸せだった。
この先ずっと、二人で日々を育んでいけばいい。そう思っていた。
「次の休み、クリスマスツリー飾ろうか」
彼の提案に胸を躍らせて、お昼間に一人、屋根裏にあるクリスマスのオーナメントを探していた時。
奥の方で小さな金庫のようなものを見つけ、途端に胸騒ぎが疼いた。
……ここに、私が隠していた何かが保管されている。
私が彼に離婚を求めた理由が。
直感的にそう悟って、ダイヤル式の南京錠に手を伸ばす。
私が選びそうな4桁の数字は、もちろん彼の誕生日だ。
0507、と設定すると案の定容易く解錠された。
震える手で扉を開く。屋根裏に自分の鼓動の音が響いているようだった。
「これ……」
金庫の中身は、およそ10冊にも及ぶ小さなノートだった。
その中でも、少し黄ばんだ白い合皮のカバーを見た途端、懐かしさに胸が熱を帯びる。
「日記だ……」
一冊を手に取ると、恐る恐るページを開く。
『小森先生の顔芸、じわじわ面白い。帰りに食べた苺のドーナツ美味しかった。美容院行く日を忘れないように』
あどけない文字にクスッと微笑む。まるで昨日のことのように、ありありとあの日の夜が蘇った。
『早川先輩と付き合えますように』
最後の一文にたまらなくなって、静かに日記を抱き締めた。
全ての日記をリビングに運ぶと、夢中になって一冊ずつ読み耽る。
そこには先輩への溢れる想いと、少しずつ距離が縮まっていく様子や、勇気を出して告白した日のことが詳細に書かれていた。
『クリスマスの日、部活帰りの先輩を追いかけて、やっと好きですって言えた。先輩、俺も好きだって! もう私死んでもいい! 神様、ありがとう!』
『初めてのデートは遊園地。調子にのってはしゃぎすぎたら、途中で具合悪くなっちゃって。だけど先輩、全然嫌な顔せずに送ってくれた。皆に見られて恥ずかしいはずなのに、私のこと背負ってくれて。先輩、大好き!』
初めてキスした日のこと。寂しくて大泣きした先輩の卒業式。
一年遅れて同じ大学に入学した年、記念と言って初めて遠出の旅行に連れて行ってくれた。
何度も喧嘩したけれど、その度にお互い謝りあって。いつしか家族の一員みたいに、実家に行き来して。
私が就職して二年が経つ頃、クリスマスにプロポーズしてくれた。あまりの嬉しさに、私目眩がしてホテルで倒れちゃったの。
あの時の話、何度も蒸し返されて二人で大笑いした。
そうやって、13年間二人で月日を共にして。そのひとつひとつの幸福を忘れまいと、丁寧に日記に記されている。
泣きながら笑いながら、次々に日記を読み進め、とうとう最後の一冊となった。
きっとここに、離婚の秘密が隠されている。
私の心が移り変わる姿が。
そう思うと怖いけれど、覚悟を決めてページをめくった。
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