時をかける日記帳

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『もうすぐ祥悟の31歳の誕生日。うんとご馳走作らなくちゃ』 『今日はお休みだったから、二人で近くの公園へピクニックに行った。張りきってお弁当作りすぎて、祥悟に笑われた』 『祥悟が私の為に花束を買ってきてくれた。記念日でもないのに。そういうところ、ずっと変わらない』  読み進めても、私の気持ちが変わっていく様子はなかった。それどころか、益々彼への愛が深くなっているように見える。   『改めて、祥悟と結婚できたことを感謝する。一緒にいてくれてありがとう。いつまでも祥悟のことを愛しています』  他の人を好きになったなんて、どうしてそんな嘘をついたの?自分自身のことがわからなくなる。  けれど次のページに、ようやく答えが記されていた。 『最近、何故か物忘れが激しい。祥悟と映画を観る約束をしていたのに、すっかり忘れてすっぽかしてしまった』 『昨日のことや日付が思い出せない。頭の中にもやがかかってしまったみたい』  どんどん下手になっていく文字に、わなわなと震え息苦しさを覚えた。 『料理ができなくなってしまった。しょうごの為に美味しいものが作りたいのに。私はどうしてしまったんだろう』 『今日も彼を悲しませてしまった。大切な記念日だったのに、どうしても思い出せなくて。やっぱり、私変なのかな?』 『勇気を出して病院に行った。若年性アルツハイマーの疑いがあるって。怖くてたまらない。しょうごになんて伝えればいいんだろう』  私はタイムリープなんてしていなかった。ただ、昔の記憶しか思い出せなくなっていただけ。 『また今日も、病院帰りにカフェで日記を書いている。家で書いたら、涙がとまらないから。やっぱり私、病気だって。今はまだ普通に生活できるけど、いつ悪化するかわからない』 『悔しくて怖くて、気が狂いそう。しょうごに伝える勇気が出ない。彼に迷惑をかけたくない』 「う……ああ……」  目の前が真っ暗になり、震えが止まらない。  どうして私が離婚しようと思ったのか、全てわかってしまった。 『今日、離婚を切り出そうと思う。あとどれくらい生きられるかわからないけれど、残りの人生、彼に迷惑をかけながら生きていくなんて耐えられない。しょうごの時間を無駄にしたくない』 『いつまでも愛してる。どうか、これから先の人生で、彼は新しい幸せを見つけますように』  そこで日記は止まっている。  数日前の私の、精一杯の決意に心を打たれ、大声でひたすら泣いていた。  今、この瞬間の私にできることは決まっていた。  全てを忘れる前に、彼に伝えないといけないこと。  
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