0人が本棚に入れています
本棚に追加
早速地上に降り立った。降り立ったといっても人間がいう空に到着した。地上ではない。あ、ちなみに言っておきますが人間にも動物にも私の姿はみえません。だってそういう目を持っていないから。私たちを見るにはそういう目が必要なんです。たまに人間で天使や神様を認識する人はいますけどそういう人は死期が近いか驚くほど短命なんです。力を使いすぎるんですかね。
人間の目の前を通っても認識できないし触れることもできない、だから安心して人間観察ができるってことです。
「はあ、相変わらず人間の世界って雑多。なんでこんなに建物があるのかしら。こんなに人がはびこって何してんだか」
文句をたれながら高度を下げていくゆっくりと下がるにつれて人間特有のにおいと排気ガスや食べ物のにおいがこみ上げてきた。こういうにおいは面白いけど慣れるものではない。
食べ物のにおいはおいしそうだなとは思うけど天使も神様も食べるという行為をしないから食べたいとは思わない。一度お米というものを食べたけど決しておいしいものではなかった。つぶつぶが口の中に広がって噛めば粘つきがあり、甘みがのどを通り越す感覚は気味が悪かった。
人間には食べるという行為は生きるためのものでもあるけど娯楽でもあるらしい。
食べるということだけではない。テレビを見たりスポーツをしたり買い物をしたり料理をしたり人と会って遊んだり。人の娯楽って多い。
でも、と私はついに地上に降り立った。どの場所かはわからないけどとりあえず街中の雑踏の中だ。目的地はどこなんだろうという言葉をかけられないくらいに人ごみの中だ。
ひとひとひと人。こんなにも人がいて周りにお店もたくさんある。娯楽の渦がそこら中にあるのにそれなのに人はどうして満たされていない顔をしているんだろう。物も人もこんなにあるのに。
人からは私は見えないのは当たり前なのだけど取り残されているように感じるのはなんなのだろう。物であふれる中なのに虚無の泥が足元にきている気がしてならなかった。
得体のしれない虚無を感じながら神様が納得するようなネタを集めなければととりあえず人間の流れに沿って歩いた。
ここはきっと首都圏と呼ばれるところなのだろう歩道には明らかに観光目的の人もいたし日本人ではない人も多くみられる。若い人も高齢の人もいるしもちろん子供もいるし。着飾った人、地味な人、よくわからない格好をしている人もいる。ファッションというものだ。フリフリだったりタイトだったり破れていたり、整いすぎていたり。髪型だって様々だ。男なのにって言葉は人間の世界では御法度なんだろうけど異様に髪が長かったり短かったり。色が明らかに染めたものだったり。
少し見ない間に人間ってこんなにも多種多様になったのか。人間って中に種類がいっぱいある。それもきっと何百種類とかじゃないんだろうな。
「人っていろいろ着なくちゃいけないから大変よね。ああいうのが楽しいんだろうけど」
天使が身に着ける服は一つだけ。白いワンピースを主に着ている。主っていうのはズボンタイプもあるから。皆が皆ワンピースが好きじゃないみたいよ。私は楽だからワンピースだけど。
ファッションチェックをしながら人ごみに紛れてあてもなく歩いた。地面を歩いているけどその地面のざらつきも私には新鮮だ。あ、天使ははだしだからね。靴を履くことはないの。だってはだしだとしても汚れないから。
どこかに面白い人間はいないかしらと不謹慎なような使命感のような気持ちで歩いていると「だからもう別れたって!」と女性の金切り声のようなものが聞こえた。私だけでなく周りの人たちは声がしたほうを向く。
まだ開店前の居酒屋の前で肌着のような派手なピンク色をしたワンピースを着た若い女性がいた。まだ年は二十代前半くらいかもしかしたら二十代にもなっていないかもしれない。お化粧をしているけど泣いているせいで全部ぐちゃぐちゃだ。アイメイクもつけまつげも口紅もファンデーションもすべて崩れいている。きっと時間をかけてメイクをしたのだろうにひどいありさまだ。
香水もつけているみたいだけど興奮して汗をかいているせいで香りまで崩れている。もちろん髪の毛もぐちゃぐちゃだ。
みっともないという言葉が出るけれど今は飲み込む。私はちょうどいいかもしれないといざこざのにおいをかぎ分けて若い女性に近づいた。
「知らね。またほかの男と会っただろ。なんだよこないだ全部ライン消したのに」
若い女性の前にはいかにもこれは普通の社会人ではないですね的な若い男がいた。男のほうは若い女性よりは年上みたいだけどでも二十代半ばくらいだろう。似合っていないひげが印象的だけど男らしいとは遠い。グレーの小奇麗なスーツを着ているところを見るともしかしてホストかしら。どう見ても営業マンには見えないわね。だってあんなにジャラジャラと指輪をつけているし。
若い男、若い女性っていうのは長いから男をグレー若い女性をピンクってあだ名にすることにするわ。
最初のコメントを投稿しよう!