運命

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 午後3時。青村書店に、川へ落とされた少年とその両親がやってきた。  病院で駆けつけた母親に連絡先を聞かれた時、美音が咄嗟に青村書店の番号を伝えてしまったからだ。  斎藤は事情を聴いて、彼ら親子が店に来られるように時間を工面してくれた。  何度か礼を言うやり取りをした後、少年がおそるおそる本を差し出した。 「お姉さんの本。表紙がカバーの向こうに透けて見えて、うちの本棚にある本にそっくりだったから……これを」  渡された本に、美音は心底驚いた。  『遠い空でいつも』と書かれた表紙をまじまじと見つめる。どう見ても新品だ。青色のスリップや出版当時の新刊広告まで挟まっていた。 「……それ、私の作品なんです」  照れくさそうに言ったのは、少年の母だ。斎藤も驚きに目をひん剥いている。彼女曰く、育児や介護、夫の転勤と生活に追われて執筆時間が取れず、小説家は『遠い空でいつも』だけで引退したのだそうだ。 (前言撤回。この本は、私に読まれる運命だったんだ! ……)  美音はその場で、一ページ目を開いた。  中学生の自分が、やっと、笑った気がした。
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