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再会
午前10時。仕事場に出勤した美音は、店主の斎藤に挨拶をした。
「おはようございます、斎藤さん」
斎藤は色付きのサングラスの向こうから、眠たげな眼を向けてくる。今年で35歳になると美音は聞いていたが、どうも50歳にしか見えない。
老け顔というわけではない。彼に貫禄がありすぎる。物静かで知的な顔立ちも、イケメンというよりは、イケオジを連想させた。
「ん、おはよ。これ」
「あー、ありがとうございます」
受け取った注文票をチェックしながら、美音は店内を猫のようにしなやかに揺れて歩く。
ここは古本屋『青村書店』。
斎藤が4代目と古くから続く店で、店内にはキッチリと縛られた古書がまるで壁のようにうず高く積み上げられている。
英語、ドイツ語、ロシア語、フランス語……ありとあらゆる言語がちりばめられ、昨今の本屋と比べても薄暗い。
それもそのはずで、青村書店が得意とするのは洋書。中でも電車やミリタリー系は店主の斎藤が得意分野としており、その筋では知られた店、らしい。
唯一の店員である美音も、詳しくは知らなかった。美音も本は好きだが、斎藤には確実に負けるという自負がある。
「えーと。これは……あー、あった、あった」
注文票に書かれた内容通りの本を探し出し、美音はテキパキと梱包を済ませていく。角が折れないようにプチプチとよく呼ばれる緩衝材を巻き付けて、さらに茶色い紙で包んでいった。
そのまま注文票通りに梱包し、送り状を作るだけの時間が進んでいく。
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