捨て鉢酒場の片隅で

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「オギノさんってあなたですか」  質問というよりは確認といった感じでまだ若そうなお兄ちゃんが声をかけてきた。 「そうだけど」  全然何一つ間違ってはいないんだけど、行きつけの飲み屋のカウンターで初対面の男にいきなり本名を呼ばれるとは思わなくて面食らう。  初対面、だと思う。思うけど、自信は正直あんまりない。  なにせ、俺は割と常日頃から酔っぱらってて記憶があやふやだし、女ならともかく男の顔なんていちいち覚えていないから。 「じゃあこれ、鷹村さんからです」  そう言ってお兄ちゃんが茶封筒を寄越す。色気もなんもない茶封筒に、何か厚みのあるものが入っているらしい。 「タカムラって誰?」  A4サイズの封筒を差し出す手が止まり、お兄ちゃんはまじまじと俺を見つめた。 「オギノさんなんですよね? え、鷹村さんの知り合いじゃない? 鷹村、高太郎ですけど」 「え、ごめんマジで知らんと思うよ」 「ええ? 鷹村さんから頼まれたんですけどね。この店の常連のオギノに渡してくれって」 「宛先は俺っぽいなあ。とりあえず中身見てもいい?」  お兄ちゃんは少し考えてから封筒を渡してくれた。  下の方になんちゃら建設と印刷されているからどこかの社用封筒なんだろう。  社名にも心当たりはないが、封はされていなかったのでとりあえず俺は中を覗き込んだ。
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