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──ここまで読む限り、この本は「小林拓馬自叙伝」そのものだ……。
足元から、十月の夜の冷気がそろりと這い上がった。
拓馬は本に挟んだ指の位置をじっと見つめた。まだ最初から十分の一ほど──ということは。
このままのペースでいけば、やがて「今」のおれに追いつくはず。だとしたら「その先」には何が? これから起きることの予言? 運勢占い的な?
「そういうのって、当たらないじゃん」
拓馬は、わざとそう声に出した。それから指を挟んでいたところを開き、先を急いで次々ページを翻した。
朝のテレビの占いで「今日は金運二重丸!」の日に、宝くじを買っても当選した試しがない。けれど、知りたいと思ってしまう。
自分にどんな未来が待っているか。
当たろうが、当たるまいが。
流れていくページの中で、拓馬は高校で恋に破れ、第二志望の大学に入り、会社の内定をもらって、マッチングアプリで日菜子に会い、このアパートに引っ越し――野外フェスで豪雨に襲われる。
――野外フェス。ついこの間の話だ。
拓馬はゆっくり次のページをめくった。
とうとう「まだ起きていないこと」が、黒く細い字でそこに浮かんでいた。
――十月の連休、二人は泊りがけの温泉旅行へ出かけることになりました。
小さなため息が出た。ほら、やっぱりハズレだ。連休、おれたちは旅行へは行かない。ボロが出た。
手近にあったレシートを栞代わりにそのページへ挟み、最後のページに向かってパラララ、と指を動かした。これを書いた奴は、最後のおれの死に方をどう「予想」してくれてるのかな――。
その時、玄関のドアがガチャリと大きな音を立てて開いた。拓馬は弾かれたように、本をテーブル横のカラーボックスに突っ込んだ。
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