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あの日から、妙にその姿が視界に入る。 無造作に整えられた黒髪。時折(ときおり)、少し長めの襟足(えりあし)の髪だけを緩く結んでいる。 前髪から(のぞ)く、切れ長の綺麗な二重。薄い唇にはいつも笑みが浮かんでいる印象がある。 彼の制服の前はいつも軽く(くつろ)いでいて、全体的に飄々(ひょうひょう)とした印象を与える人だった。 華やかなグループの中にいて、みんなに合わせて騒いでいるかと思えば、フッと退()いて、集団の中、まるでひとりでいるかのように見える時もある。 いずれにしても、僕とはまったく異質の存在に違いない。共通点なんて、男で同じクラスだということくらい。 僕は制服のネクタイすら(ゆる)められない、地味な眼鏡の『図書委員』だ。
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