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……にわかに集団が騒がしくなって、
「春樹も行くだろ?」という呼び掛けに、彼──桐原が「うん」と答えたのが聞こえた。
そして彼らは僕の後ろをはしゃぎながら、通りすぎていった。
彼らの声が遠ざかるのを聞きながら、僕は、鞄から一冊の本を取り出す。
何ページか捲り、僕は文字を指でなぞりながら、あの時の言葉を思い出していた。
……二週間前、図書室で僕たちがふたりきりになった時、彼は、僕にこの本を差し出した。
そして、この本に出てくる、ある女性の名前を指差して、この女が好きだと言ったのだ。
その理由は……。
僕は首を振り、また本を鞄に戻す。
もうすぐ返却期限だ。図書室に返さないと……。
僕も教室を出て、いつものように図書室に足を向ける。
なんだかフワフワしたような、モヤモヤしたような、最近ずっと囚われている気持ちのまま、ボンヤリと階段を上がっていった。
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