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今思えば、悪役のはじまりは年長さんの魔法使いから始まったんだ。年少、年中さんは木の役だったからセリフなんてなくて楽だった。
違和感ありまくりの演劇で唯一わたし一人にスポットライトが当たって、暑くてドキドキだったけど、楽しいって思えたんだ。
*
「それから美有紀は本好きになったんだな」
本は大人しい子が読むものだなんて思っていたけど、違った。わたしは隣でずっとわたしを見続ける文行に視線を向けてシーと小さく言って本へと視線を向ける。
「そうだけど、ジロジロ見ないでよ。文行、図書委員の仕事は?」
「よく言うよ。高校の図書館で台本読む人はじめて見たわ」
ここが落ち着くし、本のかおりを感じながらセリフが入ってくる。
「ぼくなんて活字読むだけでもクラクラするのに」
ならなぜ?図書委員なんて立候補したと突っ込みたくなるけど、堪えていると、文行は視線を落とし、色鉛筆を動かしていく。
「だから絵本にしようと思ってさ、いつか悪役を主役にした絵本も考えるから美有紀出てくれる?」
主役級の顔立ちではないわたし。少しだけ高い鼻、初対面の人によっては眠いのと言われてしまうたれ目の丸顔。
「考えておく」
高校三年の秋の中旬に文行と口約束を交わした。その会話が最後になるなんて思いもせずに。
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