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姫じゃなくても
あれから十年が経ち、わたしはマルチ俳優としてドラマに舞台に引っ張りだこの存在になっていた。
「みゆきさんの運命の一冊は白雪姫だったんですね」
名前を平仮名にしたままでデビューして文行もわたしの活躍に喜んでくれていた。けれど、彼は十年前に事件に遭い亡き人になった。
「そうですね。けど、わたしを応援し続けてくれた幼馴染みの存在があったからですかね」
園の時に魔女役だったわたし。鏡役だった文行。
『有岡さん、息子の手作りの絵本をいつか陽の目にあててほしい』
伊野尾家の通夜の席で手渡された裏面を使ったコピー用紙数枚。表面は小テストになっているんだから苦笑いを浮かべてしまう。
『わかりました。いつか演じてみせます』
絵本というよりもヒューマン寄りの内容の本はホチキスで二ヶ所留められていて、捲るたびインクのかおりがほんのりする。
「“姫じゃなくても”の作者さんは幼馴染みの人で間違いありませんか?」
インタビューを受けながら、運命の一冊は白雪姫ではなくて、この本なんだと強く思い始めていた。
「小テストで作られた絵本なんですよ。笑えるでしょう?」
文行はもういないけれど、演劇の元になった小テストの本に目を細めていた。
*
姫じゃなくても
彼女はよくいる人だと誰もが言う。普通顔とはなんだろう?ぼくが幾人も書く一人に当てはまる人がいるだろうか?前書きが長くなったのでここから絵を書いていこうと思う。
*
「よく見るとみゆきさんですよね」
「わたしばかり見続けすぎたんでしょうね」
その視線が照れくさくて。でも、嬉しかった。
文行の姫になりたかったけど、言えなかった。いつかわたしも文行の場所に行ったら、やっぱり姫じゃなくて相方がいいねって言うんだろうな。
おわり
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