悪役

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悪役

 お姫様は誰だってやりたがる。園の演劇の本は真ん中にりんごが書いてあって、わたしでも読めるように文字はひらがなだった。 『ねぇ、なんでおひめさまが、おうじさまがなんにんもいるの?』  ママから何度も聞かされた童話の本にはお姫様は一人しかいない。王子さまも一人。 『みんなが笑顔になるためよ』  幼い頃、ママの言葉が理解できなかった。意地悪な魔女をやりたいという人は少なくて。 『わかんないや』 『美有紀(みゆき)がわかるときが来るわよ。それよりも、誰もやりたがらない悪役をやる美有紀はすごいわ』  ママが褒めてくれたからというのもあるけれど、ママが読み聞かせしてくれる本よりもわかりやすくて、手作り感満載の本を開いた。 『うつくしいひめよ、りんごはいかが?』  ママと一緒になって演劇の練習をした。りんごをいくつ配ればいいのだろうかと言うとママが、お腹を抱えて笑っていたっけ。
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