姉ちゃんと僕の新しい一歩

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姉ちゃんと僕の新しい一歩 僕の姉は陰キャで目立たない。目立たないどころか、目立つことを恐れているようにさえ見える。素材は悪くないのに、自分を隠そうとしている。 「なあ、美代香。これ見て」 僕は姉のことを美代香と呼び捨てで呼んでいる。年子で一学年しか変わらないし、そもそも美代香はなんだかおっとりしていすぎていて頼りなくて姉という感じがしないのだ。 「ん?なあに?」 美代香は白くて柔らかそうな手で僕が差しだした本を受け取った。 「母さんの部屋にあった本。これ、美代香にも役立ちそうじゃね?」 顔ストレッチで若返り!というタイトルの下に、年齢を重ねたマダムたちのビフォーアフタ―の写真が並んでいる本を手に取り、美代香はきょとんとした顔でこちらを眺めている。 「え?どういうこと?私はまだ中三だし、若返りする必要はないと思うのだけど…」 美代香は小さく首を傾げて、僕の言葉を待っている。 「このマダムたちのアフターの写真見てみ。すごい自信に満ち溢れた顔をしてるだろ?つまり、美代香に必要なのはこれなんだよ」 ビフォーの写真では疲れた顔のおばさんが、弾けるような笑顔を見せているアフターの写真を僕は指さした。 「うん。確かにすごいわね。すごく若返って、自信に満ち溢れていてとても素敵。…それで私に足りないのは、この、自信ってこと?」 美代香の手から僕は本を抜き取ってにたりと笑ってみせた。 「そういうこと!この本、顔のストレッチが写真付きで詳しく載ってるんだ。例えばこのストレッチ、これは顔の輪郭をシャープにして小顔にしてくれるんだって。これは目をぱっちりさせるストレッチ。すごくない?これならお金も時間もかからないし、思いついたときにすぐにやれるだろ?美代香もさ、一カ月後には高校生だろ。この一カ月でどれだけ変身できるか試してみたくない?」 美代香は目をまん丸にして首をぶんぶんと横に振った。 「そ、そそそんな!変身なんて私はできないわよ。そもそも私はもともとかわいくないし…。何しても変わらないわよ」 美代香は白い肌をピンク色に染めて抗議する。耳までピンク色になった美代香を見て、僕の心は痛んだ。  そう、あれは4年前のことだ。そのとき美代香は小学五年生だった。その年のクリスマス、海外旅行帰りの親戚のおばさんが甘ったるいお菓子を大量にお土産に持って遊びに来たのだ。 美代香はその中でも特に、バターたっぷりのショートブレッドクッキーを気に入って、毎日のように食べていた。現地のスーパーで買って来たそれは大容量で、しかも五袋もあった。 クッキーを食べ始めて3、4日が経った頃、なんだか美代香の顔がぼってりとしているような気がしたけれど、家族の誰もさほど気にしていなかった。でも実は、冬休みの間に一気に五キロも太ってしまっていたらしい。 そして新学期の初日の帰り道で、美代香が近所の悪ガキにからかわれているのを僕は見かけた。 「おい、おまえ、めっちゃ太ってね?」 そんな声が聞こえた。 美代香は恥ずかしそうに 「うん、美味しいクッキーをもらって、毎日食べてたら太っちゃったみたい」 美代香は失礼な言葉にも怒ったりせず、困ったような笑顔で答えていた。でも、恥ずかしかったのだろう。色白な美代香の肌がピンクに染まっていた。それを見た悪ガキどもはすかさず。 「うわっ、めっちゃ顔がピンクじゃん!なんかさ、まるで豚じゃね?」 「まじ、ほんと豚だ。はははは」 僕は、すごく腹が立った。殴ってやりたくなった。だけど、図体のでかい奴ら二人を前に僕は何もできず、こそっと物陰に隠れてしまった。 「そうよね。お肌がピンク色で太ってたら豚さんみたいだよね」 美代香の震える声を聞いて、僕は物陰で拳を握りしめた。 くそっ。何もできない僕はなんて情けない奴なんだ! それからの美代香は体型が隠れる服を着て、顔が見えないように髪を長く垂らすようになってしまった。視力が低下したこともあるけれど、フレームの大きい眼鏡をかけて自分を隠そうとするようになった。 パステルトーンの服が好きで良く似合っていたのに、黒い服ばかり着るようになった。人目を怯えるようになった。 あの悪ガキらの呪いの言葉が四年経った今でも美代香を縛り付けている。もう、全然太ってなどいないというのに。 でも、僕は知っている。美代香が本当はかわいい服を着ておしゃれを楽しみたいことを。みんなと明るくおしゃべりしたいことを。 少ない小遣いの中から毎月ティーンズ向けのファッション誌を買って読み込んだり、鏡の前で笑顔の練習をしたりしているのを見かけたことがあった。 かわいくなりたいという気持ちを押し殺して、黒ずくめの服で身を隠す美代香を見ていると、どうにか手助けしたいという気持ちになったんだ。 「康くん。ありがとう。心配してくれてたんだね。お姉ちゃんこんなだから…」 美代香は申し訳なさそうに眼鏡の奥で眉を下げた。 「違う!…そうじゃなくて、僕は、お姉ちゃんに自由になってほしい。自分のしたいこと、なりたい自分になるのを諦めてほしくない。だって、美代香、本当はかわいい物が大好きでしょ?違う?」 「康くん…」 「だから、この本を見たとき、すごくいいなって思ったんだ。年をとったおばさんが努力してこんなに変わってさ、嬉しそうに笑ってんじゃん。おばさんでもでこんなに変われるんだから美代香なら余裕で変われるよ!」 僕が美代香を説得しようと熱弁をふるっていると、突然背後から本が抜き取られた。 「ちょっと、おばさん、おばさんって失礼すぎるでしょ。私の愛読書なのよ」 後ろを振り向くと、眉間に皺を寄せながらも口元はにやりと笑みを浮かべている母さんがいた。 「あ、ごめん。別に母さんをおばさん扱いしたわけじゃ…」 「当り前よ」 母さんは呆れた顔でそう言うと、美代香の隣に腰を下ろした。 「でも、そうね。美代はそろそろ殻を脱いでみてもいいかもしれないわね。美代がその恰好が好きならいいんだけど、自分を隠すためにそうしているのなら少し切ないわね」 母さんはゆったりとしたベージュのセーターとぴったりとしたパンツをさらっと着こなしている。服装はシンプルだけど、肩下で揺れる緩く巻いた毛先が華やかさをプラスしている。 息子の僕が言うのもなんだか照れるけど、母さんは華やかでセンスがいい。母さんはどうすれば自分がよく見えるかを知り尽くしているのだと思う。それにいつも堂々としているけど、きっとそれも自分の努力で手に入れたものなんだろう。 この際、母さんにも協力してもらおう!強力な助っ人になるぞ! 「な、母さんも協力してよ。母さんなら色んな知識があるだろ?」 「まあ、美代がどうすれば今よりかわいくなるかは分かるわよ。でも、大事なのは美代の気持ちでしょ。美代が自分を変えてみたいならもちろん協力するわよ」 母さんはそう言って、優しく美代香を見つめた。美代香は何か言いたそうに口をもぞもぞさせた後、本の表紙のおばさま方の写真をじっと見つめていた。 「きれい、すごく。ビフォーとアフターの写真、全然違う人みたい」 美代香がそう呟くと、 「それはね、康の言う通り、自信がそうさせてるのよ。もちろん顔ストレッチできれいになったっていうきっかけはあったにせよ、それだけでこんなには変わらない。きれいになって自分に自信がついたことで、もっときれいになったのよ」 母さんは美代香の目をじっと見つめてそう言った。 「ママ…。私、本当はかわいいものが好きだよ。一番好きな色はピンクなの。でも、でも…。私がピンクを着たらいけないんじゃないかな。また、豚みたいってからかわれるの、嫌だよぉ」 大人しくて、普段からあまり感情を表に出さない美代香が、声を上げて泣きながら母さんに抱きついた。母さんは美代香の後頭部を優しく何度も撫でていた。 「うちのかわいい子に誰がそんな失礼なことを言ったの?ママ、そいつしばいていい?」 母さんの眼光が鋭く光る。 「まあまあ、母さん、今はそんなくだらない奴らのことはどうでもいいじゃん。それより美代香だよ!」 僕は今にも悪ガキどもの家に殴り込みにいきそうな母をなだめながら、美代香に言った。 「姉ちゃん、僕、姉ちゃんには好きな服着て、好きな自分でいてほしいよ」 「康くん…」 母さんから身体を離し、潤んだ目で美代香がこちらを見ている。 そう、美代香は昔からかわいいものが大好きだった。でも、あの言葉を投げつけられた日から美代香はかわいいものを自分から遠ざけていた。 美代香は目に溜まった涙を指先で拭うと、クローゼットの扉を開け、奥の方から光沢のある紙袋を取り出した。紙袋の中からピンク色のテディベアをそっと取り出して、僕の膝の上に乗せた。高さが五十センチくらいあるそのテディベアは見た目よりもずっと重かった。かわいらしい黒目が印象的な愛嬌のある顔をしている。 「これね、二年前の誕生日におばあちゃんがくれたの。私が生まれたときの重さのテディベアなんだって。すごく嬉しかったの。だけど、そのとき、私はもうかわいい物を持たないようにしてて、この子も部屋に飾りたかったけど、目に見えるとこに置いちゃったら、またかわいい物を集めたくなるような気がして、ずっと仕舞ってあったの」 美代香はピンク色のテディベアの頭を大事そうに撫でた。 「ごめんね、ずっと閉じ込めてしまってて」 美代香の手の甲に涙が一滴零れ落ちた。 「私、本当は今でもかわいいもの大好きだよ。かわいいものに囲まれていたいよ。でも、豚って言われたのが本当にショックで、何度もその言葉を思い出して怖かったの!」 美代香は語気を強めてそう言った。声が震えている。 姉ちゃんがこんなに自分の気持ちを正直に話すのを聞いたのは初めてかもしれない。 美代香はテディベアをぎゅっと抱きしめた。そして、テディベアを見つめながら、 「ふわふわ。やっぱりかわいいものが私は大好きだよ」 と言って、微笑んだ。 「こんな繊細で純粋な子を傷つけてほんと許せないね、そいつら」 母さんは美代香に暴言を吐いた奴らのことがよっぽど許せないらしく、奥歯をぎりぎりと鳴らしている。 「ううん、違うの、ママ。私が弱いから。ちょっとしたことでこんなに傷ついていつまでも立ち直れない私が弱虫だからいけないの。でも、でも、やっぱり私変わりたい!」 美代香の瞳に強い意志がきらりと光った。 「美代!ママにも美代のその気持ち応援させてほしいな」 母さんは美代香をぎゅっと抱きしめた。それから母さんはなぜだか僕のことも手招きした。 「ほら、康もおいで。今回はあんたのお手柄じゃない」 母さんは、僕のこともハグしようとしているらしい。 「いや、僕は…ハグは…大丈夫です」 僕が手を横に振って後退ると、「おりゃあ、待てー」と母さんに強引に捕獲されてしまった。 「ちょっとまじやめてよ。僕さ、もう中二だし、母さんのハグなんて拷問だって!」 そう言って、母さんのハグから逃げようとする。本当は母さんの腕なんて簡単に押しのけられるくらいの力はあったけれど、僕は逃げるふりをしてそこに留まっていた。こうしてハグされるのは久しぶり過ぎて気恥ずかしかったけど、母さんの匂いが懐かしくて、心地よかった。 ひとしきり三人で抱き合った後、母さんが言った。 「じゃあ、そうね。美代はまずこの本をよく読みこんで。気になるところがあればその顔ストレッチを実際にやること。もちろん毎日ね。私は美代に似合う髪型やファッションを研究してみる。具体的なことは一週間後の日曜日に話し合いましょう!」 さすが、母さん。美容やファッションが趣味なだけある。 「じゃあ、僕は、女友達とかに最近の流行でも聞いてみるかなー」 本当はそんなに女友達がいるわけではないけれど、姉ちゃんのためにできることを何でもしたかった。しかし母さんにはお見通しのようで、 「あんた、女友達なんていたの?」 とツッコミを受けてしまった。 いやいや、そこは分かっていてもスルーしてくれてもいいじゃん。僕にだってプライドくらいあるんだぞ。 「二人ともありがとう!私、まずはコンタクトにしてみようかな。今まで怖くてできなかったけど、康くんとママが協力してくれるから、私も頑張れそうな気がしてきた」 美代香は例のごとく頬をピンクに染めてはにかんだ。 「いいじゃない!何か楽しくなってきたわ」 母さんはニットを腕まくりしてにかっと笑ってみせた。 一週間後の日曜日、早速僕たちは美代香の変身の計画を立てることにした。 ちなみに父さんは、「美代香は今でも十分かわいい」としか言わないので、今回の計画に関しては戦力外なのだ。 ダイニングテーブルにそれぞれ今日のために集めた資料を並べる。母さんが用意したのはノートと三冊の本とタブレット。美代香はファッション誌をテーブルに置いた。ファッション誌からは付箋がたくさんはみ出していて、美代香の意気込みを感じた。 僕はと言うと…。 実は昨日の昼休み、意を決して隣の席の秋帆に声をかけてみた。 秋帆は肩にかかるくらいのボブヘアが良く似合う、目鼻立ちのはっきりとした女子だった。僕はひそかに秋帆に思いを寄せていて、教科書を読む彼女の横顔を何度盗み見たか分からない。長いまつ毛、意志の強そうなきりっとした眉、そして少しぽってりとした唇にはどうしても目がいってしまう。 秋帆はみんなと同じ制服を着ているのに、何か違う。それは多分、自分に似合うように少しずつ着こなしをアレンジしているせいだ。センスが良く、ファッションに詳しそうな秋帆から何か良いアドバイスがもらえたらという気持ちで話しかけた。 「なあ、秋帆」 秋帆に話しかけるのはいつも少しだけ緊張する。でも今日は姉ちゃんのためにどうしても聞きたかった。 「なに?」 秋帆がこちらを向く。ああ、まじでかわいいな、とつい見とれてしまう。花が開いたような華やかな目元も大好きだけど、僕はやっぱりこの口元が好きだ。ぽってりとしていて、特に微笑んでいなくても口角がきゅっと上がっている。僕は秋帆のこのきゅっとあがった唇を見ると心臓が乱高下したような心地よい刺激に襲われる。 「あのさ、秋帆って、普段どこで服買ってる?」 「服?」 秋帆は怪訝そうに眉をひそめている。それでも口角が上がっているところがなんともかわいらしい。 「秋帆、おしゃれっぽいじゃん。だから気になってさ」 「いや、あんたの着る服は私が行くお店にはないと思うけど」 秋帆は言葉がストレートだ。ばっさり切り捨てられる。僕は気を取り直して理由を説明した。 「僕の姉ちゃんがさ、四月から高校に入るから少し変わりたいって言ってて、アドバイスが欲しいんだ」 秋帆は一瞬目をぱちくりさせて、それからふっと微笑んだ。 「へえ、康って、意外とお姉さん思いなんだね」 からかうように、でもなんだか優しい目で秋帆は言った。 「そんなんじゃないけどさ、ずっと自信がなさそうな姉ちゃん見てたから、協力できることはしてあげたいって思って」 「そういうことなら任せてよ。私さ、ファッション大好きなの。私に声かけてくるなんて康も見る目あるじゃん」 秋帆は満更でもない笑みを浮かべている。 「だって、秋帆、すごいおしゃれじゃん。自分のことよく分かってるって感じするし…」 僕がそう言うと、秋帆は目をぱっと輝かせた。 「本当に?ありがとう!私、将来はスタイリストになりたいんだ。小さい頃から雑誌を見てコーディネートを考えるのが好きだったんだ。だから、康の言葉、すごい嬉しい!」 秋帆は耳に髪をかけながら、珍しく少し照れくさそうにしている。 「そうだ!放課後暇ならうちにおいでよ。お姉さんの写真見せてくれたら、似合いそうな服、何枚か貸してあげる」 秋帆の家なんて夢のまた夢だと思っていたのに、こんなに簡単に誘われるなんて信じられなかった。全身に緊張が走る。 ほ、ほ、ほ、本当に秋帆の家に行っちゃっていいのか? 秋帆の部屋や洋服を想像すると、胸がいっぱいになって頭が真っ白になった。 「あれ?なんか用事あった?だめそ?」 すぐに返事ができずに固まっている僕を見て、秋帆がそう言ったので、僕は慌てて「行きます!」と馬鹿でかい声で返事をしてしまった。 その瞬間、クラスメイトの視線が一斉に僕に向けられる。近くの席の男子がにやにやしながら『おい、康、お前デートか?』とからかってきた。そんな僕を秋帆は呆れたように「恥ずかしい奴」と言ってくすくすと笑った。それすら僕は嬉しかった。 そんなこんなで僕は、秋帆に借りた服がたっぷりと入った紙袋をテーブルの上に乗せたのだ。秋帆は美代香に似合う色や似合うシルエットをまるでプロのように的確に教えてくれて、僕は感心するばかりだった。 「康、この服どうしたの?」 母さんは紙袋を開きながらそう言った。 「クラスメイトが貸してくれた。色々相談に乗ってくれて…。美代香の写真を見て、持っている服の中から似合いそうなのを選んでくれたんだ。好きな服があれば似たテイストのお店を教えるって」 僕はなんだか気恥ずかしくて、早口になってしまう。 「あら、康も頼りになるじゃない」 母さんがにやついているのが見なくても分かった。 美代香は紙袋から丁寧に服を取り出す。 「わあ!すごくかわいい!あ、これも素敵。この色すごく好き!」 美代香が目を輝かせながら、秋帆が貸してくれたワンピースやセーターを一枚一枚眺めている。 僕は正直苦少し苦しかった。服を取り出すたびに、秋帆の甘い香りに心が揺さぶられ、妙に落ち着かない気持ちになった。胸がいっぱいになって全身が熱を持ち始める。 「実際に着てみてって言ってたから、着てみれば?」 僕がそう言うと、 「え?いいの?着てみたい!」 と、美代香は目を輝かせた。 「うん。せっかくそう言ってくれてるなら、お言葉に甘えましょう。美代、着替えておいで」 母さんが美代香の背中をそっと押すと、美代香はこぼれそうな笑顔を顔じゅうに広げて、紙袋を抱えて自室に入って行った。 そのとき、僕の上着のポケットの中でスマホが振動した。僕は慌てて画面を開く。秋帆だった。昨日、僕らは連絡先を交換したのだ。 メッセージを開くと、 「お姉さんどうかな?なんだか私もどきどきしちゃって」とあった。そのあと二行開けて、 「康のお姉さん思いな優しいとこ、見直したよ!今度一緒に買い物行こうよ!」 とあった。 秋帆と一緒に買い物なんて、想像もしていなかった。 驚きと興奮と喜びが混じり合って、思わず「まじかー!うおぉぉぉーーー!」と叫んでしまった。 母さんが「何?康、どうしたのよ」と笑っている。 しばらくすると、美代香の部屋の扉が開いた。 「どうかな?」 母さんと僕は思わず顔を見合わせた。ピンクのワンピースに身を包んだ美代香が照れくさそうに現れた。 柔らかい色合いと華やかなディテールのワンピースは、美代香の肌の色にも良く馴染んでいて、美代香の持つ透明感がより引き出されていた。 「すごい…。美代香、本当に素敵よ。うん!我が娘ながら最高にかわいい!」 「ママ、ありがとう。顔のストレッチを頑張って、眼鏡をコンタクトにして、似合う服を選んでもらって…。みんなが協力してくれたから、勇気をもてた」 美代香はそう言うとこちらに近づいて来て、僕の手をぎゅっと握った。 「康くん、ありがとう」 美代香そのものみたいな柔らかくて優しい手の温もりが伝わってきて、なんだか泣きそうになってしまった。小さな頃から何度も手をつないできたけれど、こんな風に感謝されたのは初めてだった。 母さんの部屋であの本を見つけたとき、姉ちゃんに自信を付けるきっかけになるんじゃないかと思って手に取った。そして、姉ちゃんの未来は今まさに動き出そうとしている。 きっと僕の未来も動き出すよね? そんな予感に胸をわくわくさせながら、僕はスマホの画面を開き、秋帆にメッセージを送るのだった。
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