あの子が、さみしいと思ったから。

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 その家の玄関は、カギが開いていた。 「泥棒するのにぴったりだな」  思わず呟いてしまい、あわてて口を押さえた。 何せ明かりも点いているし、人がいるかもしれないからだ。  念には念を。俺のような新米泥棒にも分かる、初歩中の初歩である。 「しかし……変だな」  首をひねる。  さっき、門のところで盗み聞きした会話によると、どうやらここの家の人達は今日、どこかに出かけるらしい。目的地は知らないが。  まあ、そこは別にどうでもいい。  穏便に盗みが出来れば、俺はそれで十分なのだから。  問題は、『家の者が不在のはずなのに、どうして中の明かりが点いているのか?』ということだ。  ……やっぱり誰かいる?  たとえば、侵入者にも余裕のよっちゃんで対処が出来るレベルに、屈強なマッチョマン……とか?  一度不安のタネが生まれると、思考の何もかもが悪い方向へ転がって、雪だるまみたく膨らんでいってしまう。  開きっぱなしの玄関の鍵も、人がいる証のように思えてきた。  だんだん弱気になってくる。 「いかん……しっかりしろ、俺」  頭にガツンと拳で一発。 「この盗みを成功させないと、俺は野垂れ死にだ」  意を決し、ドアを開―― 「あーーっ! 来たーー!」 ――いたところで、勢いよく飛び出してきた何者かに突撃された。
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