あの子が、さみしいと思ったから。

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「わーーい! 待ってたよーー!」 「な…… なな、な」  何だこいつ、と言おうとしたが、精神的・肉体的な打撃が大きすぎて上手く言葉が出て来ず、無意味な『な』の音だけが口から転び出るばかり。  俺の脚にタックルしてきた何者かは、まるでクリスマスプレゼントをもらった子供のように、ぎゅっと抱きついて離れない。  というか実際子供だった。  小学校高学年くらいだろうか。  質素な赤いぶかぶかのTシャツに、深緑色のデニム。  腰あたりまである黒髪が、やけにつやつやしていた。 「あっ……ごめんなさい! 痛かった? 痛かったよね?」  少女の謝罪にも応じられないくらい、俺は混乱していた。  この家にとっての招かれざる客のはずの自分が、どうしてこんなに歓迎されているのか?  しかしその疑問は、急激に勢いをなくし、萎んだ風船のようになってしまった少女の一言で氷解する。 「ママが話してた、今夜来る親戚っておじさんでしょ? 唯理、おじさんに失礼なことしちゃった…………」  また怒られちゃう、と小さく呟き、少女――『ゆいり』という名前らしい――は俺の手をそっと握る。 「このこと内緒にしてね、おじさん」  にぱーっと目を細めて笑う。  ……いや、俺はただ、この家の金品を盗みに来ただけなのだが。
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