0人が本棚に入れています
本棚に追加
「わーーい! 待ってたよーー!」
「な…… なな、な」
何だこいつ、と言おうとしたが、精神的・肉体的な打撃が大きすぎて上手く言葉が出て来ず、無意味な『な』の音だけが口から転び出るばかり。
俺の脚にタックルしてきた何者かは、まるでクリスマスプレゼントをもらった子供のように、ぎゅっと抱きついて離れない。
というか実際子供だった。
小学校高学年くらいだろうか。
質素な赤いぶかぶかのTシャツに、深緑色のデニム。
腰あたりまである黒髪が、やけにつやつやしていた。
「あっ……ごめんなさい! 痛かった? 痛かったよね?」
少女の謝罪にも応じられないくらい、俺は混乱していた。
この家にとっての招かれざる客のはずの自分が、どうしてこんなに歓迎されているのか?
しかしその疑問は、急激に勢いをなくし、萎んだ風船のようになってしまった少女の一言で氷解する。
「ママが話してた、今夜来る親戚っておじさんでしょ? 唯理、おじさんに失礼なことしちゃった…………」
また怒られちゃう、と小さく呟き、少女――『ゆいり』という名前らしい――は俺の手をそっと握る。
「このこと内緒にしてね、おじさん」
にぱーっと目を細めて笑う。
……いや、俺はただ、この家の金品を盗みに来ただけなのだが。
最初のコメントを投稿しよう!