うぬぼれた恋心には鉄槌を

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「全部聞こえてたけど。お前バカじゃねーの? 最近色気付いたのってあの人のせいかよ。大和先輩は無理だろ。高望みしすぎ」 「……」  響子はぼうっとしていた。    口説いてるところ。  頭の中で、大和の声がまだこだましていた。 「……おい! 聞いてんの?」  いつのまにか、人のいない三階の廊下、校舎の端にいた。  響子はフラフラと壁にもたれかかり、項垂れる。   「……大丈夫? 次の時間休むか?」 「ううん。平気。うぬぼれてた自分にショックを受けただけだから」  そういえば。  たしか水仙の花言葉に、「うぬぼれ」なんてあった気がする。  まんまそれすぎて、響子は笑うしかない。 「……じゃね」 間宮がゴニョゴニョ、なにかを言いだした。 「……なに?」 「……だから!うぬぼれとか、思わなくていいんじゃね」 「いや、だってそーでしょ。ちょっと話してもらえたからってこんなに浮かれちゃってさ、メイクとかスキンケアとか、慣れないことしちゃってさ。髪まで毎日巻いて? うぬぼれにも程があるでしょ。バカみたい。ほんとわたし、バカみたい」 「だからって無駄じゃねーだろ。……その、メイクとか、巻いた髪とか、似合ってるし……」 小さい。 声が小さい。 「なあに、間宮くん。聞こえないんだけど?ほんとは似合ってると思ってたの?わたし、ちょっとはかわいくなったかな?」  おどけているようで、響子の声はかすかに震えていた。  だから間宮も、力を込めて、響子に伝えた。   「すげーかわいくなったよ。前からかわいかったけど」  間宮がおそるおそる前を見ると、そこには何かを必死にこらえるような、それはそれは綺麗で苦しい響子がいた。  その目は水をまとい、宝石のようにキラキラしていた。  すぐにまた俯いてしまった響子は、ツンツンと、間宮のカーディガンの裾を引っ張った。 「……あのさ、これからは花壇の水やり、一緒にやってくれない?ひとりでやるといろいろ思い出しちゃいそうだし」 「あー……別にいいけど。つーか諦めんの?大和先輩のこと」  響子は窓から外を眺めた。  花壇が見えた。響子にとっては大きな異変だったが、遠くから見るとなんてことはない。ピョコンと顔を出した芽なんてちっとも見えなくて、ただの土がある場所にしか見えない。  でも確かに、そこには美しい花を咲かせようとしている水仙がいる。 「わかんない。でもいつか、自分の言葉で伝えたいな」  冬。  厳しい寒さを耐え忍び、暖かい春の訪れと共に咲く水仙の花。開花までにはまだまだ時間がかかりそうだ。 cd0d9f38-a1cb-4d41-beba-4acafa0b2e25 水仙の花 (筆者撮影)
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