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「そーそー。それでナルキッソスが死んだところに生えてきた植物が、水仙。水仙の学名がナルキッソスっつーのは、その話からきてるらしい」
「え。知らなかった。そうだったんですね。大和先輩詳しい」
「? あんた一年だろ? 俺のこと知ってんの?」
きょとんとした顔をする大和に、響子は咄嗟に目を逸らす。
いい。
顔がいい。
なんだこの、かわいい表情は……
ずるい。反則だ。
あと、この学校であなたのことを知らない人なんていないです。
推せる!!!
内心は忙しく叫びながら、響子はあくまで落ち着いて……落ち着いて答えるようにする。
「すみません、先輩有名人だから……。急に名前でお呼びしちゃってすみません。馴れ馴れしかったですよね……」
「有名人? ……ま、いーけど。そーだこれさ、毒あっから。葉っぱ出てきても食うなよ」
「え?!食べませんよ」
「……だよな。フツーは食わねーよな。でも結構ニラに似てるっていうんで、時々中毒事故が起こるんだってさ」
「そ、そうなんですか……」
大和先輩にこんな植物好きな一面があるなんて。
それになんだか……とっても知的じゃない?
あとで真奈に教えなくちゃ。
「あとさ。ナルキッソスのそばにいた、エコーって女の話、知ってる?」
「エコー? 聞いたことないです」
響子がそう答えると、大和が自慢げな顔をする。
「エコーっつー女は、ナルキッソスのことが好きだった。でもエコーは相手の言葉を繰り返すことしかできねぇ呪いにかかってた。だからエコーはナルキッソスにウザがられて、弱って死ぬ。だけど体が死んでも声だけは残ってた。
ナルキッソスが衰弱したときも、声だけになったエコーは奴のそばにいた。いよいよ最後の時を迎えたナルキッソスは、水面の自分に向かって『さようなら』と声をかける。それにエコーの声が『さようなら』と答えると、ナルキッソスはプツリと事切れた。……って話」
響子は静かに驚いていた。
大和先輩って、こんなに楽しそうに話す人だったんだ。
形のいい唇がよく動いていた。
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