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「……そんな、切ない話があったんですね。すごい、先輩物知りですね。神話、お好きなんですか?」
「そーゆー話に詳しい人がいてさ。聞いてもいねーのにすげー喋ってくるから覚えた。……つーか悪いな、やってるところ邪魔しちまって」
「いいえ!全然!……う、嬉しいです。お話聞けて」
「そ? よかった」
大和は持っていた球根を土の上に優しく置いた。
その顔はとても満足げで、その輝きに当てられた響子は思わずウッ!と声を漏らした。
「……大丈夫か?」
「だだ大丈夫です。すみません」
「そっか。育てんの頑張れ」
「……ありがとうございます」
ニッと笑って、飄々と去っていく大和。
その後ろ姿、広い背中、長い足。
サラサラと風に流れる金髪。
響子は見えなくなるまで見つめていた。
困った、困った。
この気持ち。
水仙よりも早く育ってしまいそうだ。
――
それから響子はしょっちゅう花壇に立ち寄った。
先生に怒られない程度のメイクを仕込んで、ヘアミストまで振りかけて。
そう、響子は自分磨きに精を出した。初めて自分でフェイスパックを買った。ヘアパックもするようになったし、ネイルだって整えた。姉のヘアアイロンを借りて、真っ直ぐストンだった髪をふんわり巻くようにもなった。
その変貌ぶりに、家族もクラスメイトも驚いた。そして中学から付き合いのある同級生・間宮隼人は、なぜか不満げな顔をしていた。
「花村メイクなんてしてんの? そういうの興味ないって言ってたじゃん」
「目覚めたの。動画で研究したんだけど、どう? 似合うかな」
「全然似合ってねーよ。やめとけ」
「俺はいいと思うよ!花村さんすげーかわいくなった」
間宮の友人が首を突っ込んでくる。
「ほんと?うれしー! ありがとう」
「お前変なこと言うなよ。花村が調子に乗るだろ。これ以上ケバくなったらどーすんだよ」
ふん!あんたにはわからんでしょうね。
響子はお子ちゃま同級生の白い目はひたすら無視することにした。
だがどんなに響子が気合を入れて登校し、準備万端で花壇を見張っても、そこにあるのはうんともすんとも言わない土だけで、お目当ての人は現れなかった。
その代わり、校舎内で、その人は現れた。
食堂に向かう廊下の前方から、こちらに向かってくる金髪長身のまばゆいお方。お隣にはお友達?普通な顔をした普通な男が一緒に歩いている。
「あれ? 球根の?」
大和が響子に声をかけた。
「せ、先輩こんにちは!」
「おー。咲いた?」
「ま、まだです」
「だよなー」
大和は手をヒラヒラとふって、そのまま響子の横を通り過ぎて行った。
たったそれだけ。でもたったそれだけで響子の胸は踊ったし、隣にいた女友達はキャーキャー元気に飛び跳ねて、響子にギッチリ抱きついた。
大和先輩が私を覚えてくれている!
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