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それから響子は、暇さえあれば、「かわいくなる方法」「モテる方法」を検索し、できるものを片っ端から実行した。
間宮以外の人は、響子の変化を誉めてくれた。
次は。次は名前を覚えてもらおう。球根の女、じゃなくて花村響子。それから連絡先を聞いて……
大和先輩、今は誰かと付き合ってるって話は聞かないけど、どんな人がタイプがなんだろう?好きな人とかいるのかな。
もっと知りたいな。もっと会いたい。
そんなある日、突然。
響子の花壇に異変が起きた。
水仙が沈黙を破り、目を覚ましたのだ。
ピョコン、ピョコン。土の中から芽が顔を出している。
これは。
これは大和先輩に報告しなくっちゃ!
格好のネタを得た響子は、昼休みになると早足で教室を出た。
教室から間宮が顔を出し、廊下の響子を呼び止める。
「花村?どっか行くの?」
「ちょっと2年生のところ」
「は?なんで?」
響子は立ち止まって、くるりと振り返る。
その顔があまりにもキラキラしていたものだから、間宮は思わずドキッとした。
「私はエコーじゃないから! 繰り返すだけじゃ終わりたくないの!」
何言ってんだ? 間宮は首を傾げる。
響子はまたくるっと体の向きを変えて、スタスタスタと去っていく。
「いいねぇ。恋だねぇ。あの響子があんなに前向きになってさぁ、恋の力は偉大だねぇ」
間宮のすぐ横で、響子の友人・真奈が意味ありげにつぶやいた。
「こ……え?恋?花村が?誰に?!」
間宮は目を丸くして、慌て出す。
真奈はこくりこくりと頷くだけで、なにも答えない。
「……ちょっと。ちょーっと様子見てくる」
間宮は響子の後を追う。
階段を登る。
2年生の教室があるフロア、その一角に響子の姿が見えた。間宮は咄嗟に壁に張り付き、体を隠しながら様子を見る。
響子はキョロキョロと遠慮気味に、教室の中を覗いている。そのうち普通そうな男が気がついて、響子に声をかけた。
「一年生? 誰か探してるの?」
「すみません、大和先輩はいませんか?」
「大和君か。大和君は神出鬼没だからね。俺もどこにいるかわからないよ。と思ったらいたね」
響子がぐるんと振り返る。
いつのまにか。すぐ後ろに橘大和が立っていた。
「大和君、お客さんだよ」
「あ、球根の一年じゃん」
「こ、こんにちは。実はその球根のことで!ついに芽が出たんです! 先輩に……早くご報告したくて」
そうは言ったものの、響子は大和の目を見れなかった。直視するにはあまりに近すぎた。
「まじか! 芽出ると嬉しいよな。よかったな」
「なになに、球根? 大和君、またレンさんになにか頼んでたの?」
「ちげーよ。レンさんの手は借りてねぇ。この子が花壇に植えた球根が自力で芽ェ出したんだよ」
「……レンさん?」
響子がキョトンと呟く。ふと見上げると、大和の嬉しそうな、なんとも幸せそうな、そんな顔が見えた。
「おう。俺の好きな人。植物のことすげー詳しい人」
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