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結局、今日も粘ってみたものの瑠衣が俺の名前を呼んでくれることはなかった。
愛しい声すら全く聞かせてくれない。
額にキスを捧げる。リップ音を立てると瑠衣の身体は大げさなくらい、びくっと跳ねた。
静かな部屋に彼女の少し乱れた呼吸が聞こえる。
簡単に壊れてしまいそうな瑠衣に、丁寧に触れているはずなのに。
いつもそうだ。彼女は俺に怯えてる。
その虚ろな瞳さえ、他の男を見てる目さえ愛せたなら、どんなに楽なことか。
俺は欲張りだから、その目さえも自分を映さないなら取り出してしまいたい。
そして、俺だけを見つめてくれる義眼に取り替えたい。
耳元で愛してると出来るだけ優しく囁いて、部屋を離れた。
室内の温度は至って快適なはずなのに、彼女の存在する部屋に自分が居るだけで、身体が熱くなる。それに緊張で触れる手が震えてしまう。
冷たい空気の漂う洗面所の鏡の前に立ち、泣いてる自分の顔が鏡に映る。
涙が頬をゆっくりと伝う。それをずっと見ていた。
思わずため息をついてしまう。
「……ひっでぇ顔」
俺は愛されない。
1人の女性相手に情けないよな。
彼女が好みだというものを全て取り入れたこの姿でさえも、愛してはくれないんだね。
瑠衣の為に自分を塗り替えたのに。
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