耽美に沈む

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 いつも通り残業を終え、最寄り駅まで行く最終電車に乗る。 「はぁ……つらい。もう仕事辞めたい」  就職説明会の時はこんなブラックって感じじゃなかったのにな。  ネットの評判も悪くないし、教授から勧められたからと安易に就職先を決めたのがミスだった。 「けど、再就職先を探すのもキツいよね」  溜め息を吐くと同時に胃がきりきりと痛む。  いつもなら家までまっすぐ帰るのだけれど、こんな気分のまま寝たら悪夢を見そう。  気晴らしに夜の散歩がてら近所のコンビニへ足を運ぶ。  ついでに冷凍食品の買い置きもしたいし。……たまには人の作ったご飯が食べたいです。  他人が作った温かい食事を想像しながら冷食をカゴに詰める。  つい先日導入されたセルフレジに苦戦しているのか、まだしばらくはかかりそうなので漫画コーナーに立ち寄る。 「え!? あの漫画最新刊出たんだ」  最近は会社と家の往復しかしてないから全然気づかなかった。まぁ、どこかに出かけようと思ってもそんな気力は残ってないから仕方ない。  そろそろ会計をするかと踵を返そうとした瞬間、私の目に留まったのは一冊の本。 「こ、これは……よく分からないけど買った方が良い気がする」  多分これが私にとっての運命の一冊だったんだろう。  帰宅後、急いで冷凍庫に冷食をしまうと取り憑かれたようにその本を隅から隅まで読み込んだ。
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