まちの書店と本屋大賞

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「初めまして、今日から教育を担当する社員の真瀬です。よろしくお願いします」 「……どうも」  大迫(おおさこ)さんは見た目通りのクールビューティだった。  顎下で切り揃えられた黒髪にナチュラルメイク。皺のない白シャツに細身の黒いスキニー。神経質そうに目を細めてこちらを見下ろしている。身長が高くて羨ましい限りだ。 「じゃあ売り場の案内からしますね」 「必要ないです。子供の頃から通っているので」  ……うーん、やりづらい! 「申し訳ないんだけど、実際に売り場を見ながら説明したいことがあって。なるべく知ってることは端折るので!」  半ば強引に売り場へと連れ出して説明を始めると、彼女は「それは知ってます」「知らなかった」「理由はなぜですか?」と質問も活発で、真面目にメモを取っている。  ただ接客に関しては初めてで、お客様に挨拶するのは苦手なようだった。声を発さずにお辞儀だけしている。 「大迫さん、お客様には挨拶をしましょう」 「……自分が客の立場だと話し掛けられるの鬱陶しいので」 「集中して選んでいる人はともかく、すれ違った人には挨拶をしましょう。防犯の意味もあります。挨拶をして嫌な気分になる人は少数派だけど、無視したと怒る人はいます」 「はぁ」  納得のいかない顔をしながら、その後は私に続けて小声で挨拶を繰り返した。  うーん、悪い人ではなさそうなんだけど……。
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