国語の宿題と綿貫の一冊。

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国語の宿題と綿貫の一冊。

『題:三者三様  なあ、といつも通り、俺の家に集まった親友の橋本と綿貫の顔を見る。 「あれ、どうする? 国語の宿題」  その言葉に、うーん、と橋本は伸びをした。どうするって、と後ろに手を付いた綿貫が器用に肩を竦める。 「やるしかないだろ」 「そりゃそうなんだけどさ」 「じゃあ何だよ、どうする? って」 「テーマ。二人は決まった?」 「運命の一冊、だろ? 自分にとってのその本について、原稿用紙三枚以上の感想文を書いて提出しろって。そんなの簡単じゃん」  あっさり言い切った綿貫に、お前の一冊は何だよ、と更に問い掛ける。 「俺はな、綾継さんの写真集だ!」  マジか、と反射的に応じる。本気? と橋本も首を傾げた。 「女優さんの写真集を選ぶのかよ」 「あぁ。本気も本気、大本気だ」 「そんな日本語は無い。でもいいのかぁ? 写真集の感想文を提出するなんて。綿貫は真面目に取り組んだって俺と橋本ならわかるよ? でも先生には絶対にふざけていると思われるって」  そもそも国語の宿題で写真集を取り上げようという発想が有り得ないだろ。文章を読んだ感想の提出を大前提に据えているはずなのに、下手すりゃ文字すら無いページだって存在するかも知れない写真集って想定外にも程がある。あと、そもそもだな。 「それに、クラスメイトの連中にもいじられるに決まっている。綿貫のスケベ、ってな」 「やめた方がいいよ」 「悪いことは言わないからさ」  橋本と交互に止めてみる。しかし、いや、と綿貫は強く首を横に振った。 「俺は真面目にあの写真集が俺にとっての運命の一冊だと思っている。綾継さんほど素敵な女優さんは彼女以外に存在しない。否、いるのかも知れないが俺にとってのナンバーワンは決して揺るがない。テレビを見ていて胸が高鳴ったのは初めての体験だ。他に映画館の大スクリーンやスマホの小さな画面でも彼女を見た。そして綾継さんはいつでも素敵で可憐な人だった。俺にとっての女神、太陽、ひいては生きる糧だ。その人の長い、長い人生における、一瞬を切り取った写真。それを集めた冊子をおいて、運命の一冊など存在しない!」  やたらと熱を込めて語って来る。本当に綾継さんが好きなのだと伝わって来る一方で、粘着気質が垣間見えた気がしてちょっと気持ち悪くなる。 「綿貫って、好きな人を陰から見守って満足するタイプ?」  俺と同じ感想を抱いたらしい橋本が、割とハッキリ直球を投げ込んだ。 「何でわかるんだ」 「ストーカーっぽいから」  訂正、火の玉ストレートだ。 「誰がストーカーだ! いいか、俺は好きな人には恥ずかしくて話し掛けられないんだ。そして、好きだからこそ幸せになって欲しい。その様を見届けられれば俺も幸せだ」 「その幸せって気持ちが、俺が見守らなきゃ、に変わったら紛うこと無きストーカーだからね。気を付けてよ。俺、捕まった綿貫に面会へ行くとか嫌だもん」  橋本が止まらない。一方、おぉ、と何故か綿貫が今度は目を輝かせた。 「つまり、もし俺が罪を犯しても会いに来てはくれるんだな!」 「面倒臭いから行かない」 「面会へ行くのは嫌だって言ったのに!? 来てくれるって意味じゃないのか!」 「ややこしいなぁ。そんな状況は願い下げだからストーカーにはならないでねって意味だよ」 「ならないから安心しろ」  いや、割と危ういと思う。だけど話が堂々巡りを始めそうだからこの辺で打ち切るか。 「じゃあ本当に綾継さんの写真集で宿題を提出するんだな」 「おう! 俺にとって如何に運命の一冊であるか、原稿用紙三枚分をみっちり使って書いてやる」 「ストーカーの戯言にならないようにね」 「シャラップ、橋本!」
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