21、悲しい微笑み

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 ミンス夫人によると、クリスの秘密組織としてのパートナーであるジャックが、危険な状態にあるということだった。今までこのような危機に陥ったことはないそうだが、こういった場合、関係者は即時避難する決まりになっていて、それに従ってクリスは動いていると教えてくれた。  クリスの邸まで手が及ぶ可能性は低いが、念のため自宅に帰ってほしいと言われて、エルヴィンもそれに従った。  ミンス夫人は連絡役として動いているが、詳しい事情は聞かされていないようだ。  ただ、ジャックが向かっていたのは、ハーブ地方にある村だったと聞き、エルヴィンは何かが繋がった気がした。  青の薔薇という組織は、王命によって秘密裏に動いていると聞いたが、かつて王が目を付けて、ゴードルが調査対象にあったと聞いた。その調査が継続されていたのか、最近になって再調査の指示が出たのか分からないが、ジャックはゴードルについて調べていて、危険に陥っているのではないかと思った。  なぜならハーブ地方は、エルヴィンの父や母、そしてゴードルの出身地であり、三人の暮らした村がある。  かつて年齢の近い若者達が集い、王都を目指す一行として出発した後、彼らはしばらく共同で生活したらしい。  ゴードルについては、親が村長をしていただけあり、他の連中より金を持っていた。そのため、一人で部屋を借りたようだ。一番年若かったエルヴィンの父は、ゴードルとは兄と弟のような関係だった。  王都に着いてすぐに、父親の伝手で仕事をもらったゴードルは、エルヴィンの父に声をかけて、自分の仕事を手伝わせることにした。  田舎から出てきた若者達の生活は過酷だ。  まともな仕事にありつけるのは一部の者だけで、多くの者は、肉体労働に従事し体を壊して仕事を辞めることになる。  そういうわけで、一緒に王都へ来た若者達のほとんどは散り散りになった。そんな中で、エルヴィンの母も、彼がまだ物心つく前に失踪してしまう。  町の憲兵に調査を依頼したが、ただの家出として処理されたそうだ。  ゴードルの父や母はすでに亡くなっている。  ジャックが調査に行ったとすれば、村へ帰った者達に話を聞きに行ったということだろう。  ゴードルの邸に侵入者があったという話も、ジャックで間違いなさそうだ。  恐らくその時に、見てはいけないものを見てしまった。  だからゴードルは血眼になって彼を探している。
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