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1、偽りの身
激しくナカを突き動かされて、堪えきれずに声が漏れる。
目の前のシーツに、涙なのかよくわからないものが、ポタポタと落ちていく。
「ああ、もっと」
湿っていてだらしなく、女のような嬌声を上げているのは誰だ?
「もっと、奥にください」
懇願してその通りに深く打たれると、快感で満たされて頭が真っ白になる。
嬉しい、嬉しい、気持ちいい。
やっと捕まえたという声が頭に響く。
それは本能を剥き出して、後ろから自分に楔を打ち込む男の声か、それとも……。
熱い息を吐きながら振り返ると、そこには自分を見下ろす紫色の目があった。
人と関わるのが苦手だと言っていた男の控えめな笑顔が頭に浮かぶ。
この男は、こんな目の色をしていただろうか……。
男の口元にある牙がギラリと光ったのが見えた。
あぁ喰われる。
そう思った時、うなじに強烈な痛みと熱を感じた。次の瞬間に痛みは消えて、代わりに今まで感じたことのない快感が体を貫いた。
どこもかしこも、真っ白になった。
ありったけの熱を吐き出して、そのまま意識を手放した。
◇◇◇
長閑な牧草地帯を、薄曇りの空の下、馬車がゆっくりと進んでいく。
年老いた馬の蹄の音と、軋んで壊れそうな車輪の音を聞きながら、クリスはぼんやりと空を見上げた。
旅の終わりの空は、いつも曇っている。
何とも言えない寂しげな色は、自分の人生によく似合っていた。
おそらくこのまま、晴れることはなく、沈んだ空気を纏いながら生きていくのだろうと思うと、片方の口の端が上がった。
一人で自嘲気味に笑った時、かすかに聞こえた音に、クリスは耳を澄ませた。
それは遠くからでも分かる。
長閑な空気を切り裂くような、耳に馴染まないあの音だ。
「汽笛だ……。機関車が来ましたぜ。お客さん」
今まであくびをしていた御者が、興奮気味に話しかけてきた。
もうすでに気づいていたが、そうですねと言って、クリスは音のする方向に目を向けた。
すぐにガタガタと地面が揺れ出して、耳をつんざくような汽笛の音が聞こえてきた。
轟音を立てながら、黒い獣のような大きな車両が、線路の上を走り抜けていった。
信じられないくらい、あっという間の速さだ。
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