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娘がこの家に、──圭亮の目の届く範囲にいてくれるのはいつまでだろう。
四月には大学に入学し、数年後には社会人になる。圭亮より、……家族より心を傾ける存在ができるかもしれない。
いや、それが自然だ。
結果として独身を貫いた圭亮に、「ずっとパパといてあげるよ」と口にした真理愛。即座に「要らない!」と返してしまった。
あのときの娘の呆れた顔。
言葉のチョイスが悪かったのは認めよう。それでも決して嘘偽りではなかった。
ずっとこの掌にいて欲しいと願う自分もどこかにいる。いつまでも、子どものままで。
しかしそれを望んではいけないのもまた、理解していた。
「ねえパパ。いろいろとありがとう」
まるで父の心を読んだかのような、改まった娘の台詞。
咄嗟に否定しようとした圭亮を制するように、真理愛がさらに言葉を被せる。
「でも、これからもまだまだ世話になるから! だってあたし、パパの子だもん。覚悟しててよ、パパ」
「ああ、任しとけ!」
声が震えそうになるのを、圭亮はどうにか堪えて平静な振りをした。
近い将来、この娘が巣立つ日が来ても。
血の繋がりだけではない、二人が重ねて紡いできた日々は決して消え失せることはないのだ。
互いに「育て合って」培った父と娘としての関係は、永遠に変わることはない。
──「こっちこそ『ありがとう』だよ」と心の中だけで呟く。言葉にしたら涙を堪えきれないだろうから。
~END~
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