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 真理愛を引き取って、圭亮は一人暮らしのマンションを引き払い実家に戻った。  両親の手を借りて、というより実質ほぼ頼りきりで初めての育児に奮闘することになったのだ。  表情も言葉もない、人形のような少女。  義務感が大半だった。「親として」すべきことをこなすので精一杯だった日々。  娘が初めて笑顔を見せた日。  無意識にも心の片隅に追いやって見ない振りをしていた、「なぜ自分がこんな目に」という薄暗い感情はもうどこにも探せない。  あの日、圭亮は真に「親として」の一歩踏み出せたのだ。  出会ってから初めて出た「言葉」は、家族への呼び掛けだった。  五歳の誕生日でもある十二月二十五日(クリスマス)に、圭亮の両親である祖父母に「じーじ・ばーば」、そして仕事を終えて帰宅した圭亮に「ぱぱ」と。  未熟で無神経だった男が、娘にて親になれたと心から思う。  名ばかりだった「父親」を、ただ信頼して受け入れてくれた真理愛。  彼女のぎこちない微笑みに、伸ばしてくる小さな手に、圭亮の方こそが愛を与えられたと感じていた。  ──今日子には届かなかったのだろうか。おそらくは母にも向けられていたその想いが。
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