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【2】
あれからもう十年以上が過ぎた。
真理愛は高校三年、受験生だ。「家から通える大学がいい」と、地元ではかなりの難関大学を目指している。
圭亮自身が遠方の大学に通っていたため、自宅通学に拘る必要はないと話していた。
高給取りとまでは軽口でも言えないが、幸い安定した仕事もある。まだ四十過ぎということもあるし、それこそ若い頃から「娘のために」と蓄えに励んで来ていた。
親の家に同居で、生活費は渡していても別に住居を構えるよりは出費も相当抑えられている。
そのため、学費については何も心配はいらないとも伝えていた。しかし本人の決意が固かったのだ。
本命は国立、併願で合格した私立もすべて通学可能範囲に位置する。
家族に気を遣っているのでは、という思いは拭えなかったが、もう小さな子どもではない娘の意思を尊重したいと結局は賛成した。
《パパ! 受かってたよ!》
職場で上司や同僚に断って、規則で置いたままのロッカールームで確かめたスマートフォン。
今日は娘の受験した大学の合格発表だ。今どきは、わざわざキャンパスの掲示を見に行くことなくネットで確認できるらしい。
大学の「結果発表ページ」を確認するまでもなく、ディスプレイに浮かぶ通知が娘の合格を伝えていた。
トークルームを開くと、メッセージの上にWEB発表画面のスクリーンショット。
「やっ、……た!」
思わず漏れた声を口に手を当てて抑える。ロッカーとはいえ職場なのだ。今は抑えなければ。
どうにか表情を繕えるようになるまで間を置いて、圭亮はようやくオフィスへ戻るために歩を進めた。
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