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「おかえり、パパ!」
出迎えた真理愛の笑顔に、自然と口元が緩む。
ここしばらくはさすがに緊張が隠せなかった彼女の、久しぶりの満面の笑み。
「ああ、ただいま。やったな、真理愛。おめでとう!」
「うん。『合格確実だし大丈夫』って言われてても、やっぱり受験に絶対はないからさ。中学受験よりずっと不安だった」
弾んだ声で告げる真理愛の上気した頬に愛しさが募る。
「圭亮、今日は真理愛ちゃんのお祝いでお肉なのよ~」
キッチンで食事の支度をしている母も、全身から喜びが溢れているようだ。
「肉? 父さんも母さんも、もう肉はあんまりって言ってなかった?」
「祝いは肉に決まってるだろ! 箸で切れるような上等なのを買ったから大丈夫だ」
七十を過ぎた両親を気遣ったつもりの問い掛けは、父に遠慮なく退けられた。
「あたしも『お刺身にしようよ』って言ったんだけど。おじいちゃんが『絶対肉なんだ!』って聞かないんだもん」
「おじいちゃんはまだまだ自分の歯だって残ってるんだからな。ばあさんも、なあ?」
「そうよ。こんな時でもないとお肉なんてわざわざ食べないもの」
真理愛が笑いながら話すのに、両親が口々に答えている。
もう幼くはない、けれど今までと同様に大切な可愛い娘。
小柄で痩せた身体の、泣きも笑いもしなかった四歳の少女は、いつの間にか十八歳になっていた。
初めて顔を合わせたときは二十九歳だった圭亮が、もう四十二なのだからそれも当然だ。
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