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「はい、コレ。」
そう言ってオトコから一冊のノートを手渡された。
自らを【神さま】と名乗るオトコ。髪はボサボサでうっすら無精髭。そして、首がヨレヨレに伸びたTシャツと膝に大きな穴のあいたジーパンを着ている。極めつけは足もとの下駄だった。昭和の時代の貧乏浪人生のような出で立ち。何処をどう見たって【神さま】には見えない。
「あー、もしかして、どう見ても【神さま】に見えないって思ってる?」
「えぇっ!?あっ、いや…」
ココロの声を見透かされて返答に困っていると
「あー、困んなくても大丈夫。慣れてるんで。よく浪人生?って言われるからw。」
とオトコはボサボサの髪を右手でわしゃわしゃと掻きながら言った。
「はぁ、そぉおなんですかぁ…。で、【神さま】が私に何のご用なんでしょう…か?」
神さまと信じてはいないが一応聞いてみる。
「へっ?」
自称【神さま】はキョトンとした顔をしながら
「何のご用って!?キミ覚えてないの?
キミ昨日ボクのトコロに来たよね?そして泣きながらこう言ったよね?
“私を幸せにしてください”って。」
「へっ?」
今度は私のほうがキョトンとしてしまった。昨日…?泣きながら…?なんだっけ…??
「あぁっ!」
ジワジワと記憶がよみがえってくる。
昨日私は近所の神社に行きお賽銭箱の前で泣きながら「神さまぁー、どうか私を幸せにしてくださいっ!」とお願いしたような気もする。
気もするというのは昨日の私はべろべろに酔っぱらっていた。なのでやや記憶が曖昧なのだ。
昨日は30歳の誕生日であったが、祝ってくれるような彼氏も友達もなく、ボッチで誕生日パーティを開催。一人、呑んだくれた挙句、フラフラと近所の神社に立ち寄ったのだった。そこで何故か無性に寂しくなった私は神さまに“幸せにしてくれ!”
と泣きながらお願いしたのだった。
「あっ?やっと思い出してくれたみたいだね?」
私のココロの声を聞いた【神さま】が嬉しそうに言った。
「あ、いや…はぁ…。でもアレは酔った勢いで…。」
「えぇーーーー!そりゃないよぉ!!」
「そりゃないよと言われましても…」
私にそう言われ、【神さま】なるオトコは肩をガックリ落としている。暫く沈黙が続いたが、自分自身に納得させるかのように
一人でウンウンと頷き、
「まぁ、いいや。とにかく、ソレ!渡したからね!書けたら賽銭箱へ投函してね!」
私に手渡したノートを指さし、そお言って
男はスゴスゴと去っていった。
「賽銭箱へ投函って何を?」
─ノートの表紙には手書きの下手くそな字で【Your DESTINY“あなたの運命”】と書いてあった。
ページをめくると中には私と【神さま】とのこれからの人生設計がビッシリと書きこまれていた。何年後に女の子が生まれ、その翌年には男の子が生まれるとか、20○○年には庭付きの家を建て、○○年には家族で海外旅行に行くなど細かい所まで詳細に書かれていた。
そして最後のページには封筒が挟まれており、開封すると二枚の紙切れと一枚の写真が入っていた。
中身を取り出してみると一枚は手紙で、これまた下手くそな字で
【ボクはまだ神さまになりたてなので、他の神さまのように神の力は使えませんが、ボクなりのやり方で貴方の願いを叶えます。ボクが責任を持って幸せにします!】
と書いてあった。
そしてもう一枚の紙切れは婚姻届で夫の欄にはすでに【神さま】のサインがされていた。
「えっ!?何これ?まさかのプロポーズ?いやいやいやいや…あんなボサボサ頭、いや、自称神さまかも知れないけどあの人と結婚してもぉ…幸せになんかなれ…な…」
と言いかけた私は同封されていた写真を見て叫んだ。
「わぉ、ジーザス!!」
写真にはたくさんの人に囲まれ幸せそうに笑う二人の老夫婦が写っておりそれは紛れもなく私とあのボサボサ頭なのであった。
─おわり─
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