運命の一冊

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 こんにちは。  妖精です。  私は一人に一つ、運命の本を配ってる。  でもなかなか人間は気付かないみたい。  物心つく頃には、その一冊はすぐその人のそばにあるのに、気付く人は少ないわね。  もしそれに手を伸ばして、どのページでも開いてみて、1ページでも目を通せば、最初から読んでみようって気になるはずよ。  そして止まらなくなって、最後まで読んでしまうの。  なのに、人間たちはなかなかそれを手に取ろうともしない。  もし読んでしまえば、自分の人生が輝きだすってことを知らない……。  そうね、仕方ないわね。  教えてないもの。  でもそれは、自分で気付かなきゃ意味ないのよ。  私も、神様に口止めされてるから言えないの。  でも、ふつう気付くじゃんって、思うのよね。  何で気付かないんだろう?私にはその方が不思議よ。  近頃は、気付く人間が減ってきてる気がするわ。  昔はもう少しいたと思うんだけど。  ああ、私、これでもすごく長生きしてるの。  こんなに可愛いのに、きっと幾つか聞いたら驚くわよ。  そんなことはどうでもいいわね。  ほら、若い人間が自分の部屋に戻ってきたわ。  棚の上に無造作に雑誌が一つ置いてある。  自分の部屋があるっていうだけでも幸せなのに、そんな事にも気付いてない目をした若い男よ。  そいつは自分の運命の一冊であるその雑誌を素通りして、その隣にある電話に手を伸ばしたわ。  何をテンパってるのかしらね。  お金の話をしてるようよ。  約束していたお金がもらえないって、髪の毛をかきむしってる。  知らない人間の指示でとっても悪いことをしてきたみたい。  その知らない人間から約束通りの金をもらえない上に、逆に脅されたんだって。  哀れでしかたない。  この男、地獄に落ちるわ。
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