神の薄い本、略して神本

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「かしこまりました」  そう、男とも女ともつかない声が応える。  それと同時に、――水晶玉の表面に、ひとりの若い男が、映し出された。 「さて」  水晶玉を机の上に置き、天井からスクリーンをおろす。  いつのまにか取り出した、うすしお味のポップコーンをほおばりながら、それを鑑賞する姿勢に入った。べっこうで出来たメガネのフレームを、くいっ、と持ち上げる。その拍子に、さらさらとした長い黒髪が、手に押しやられてすこしボサついた。 「どうなりますことやら……」 「……あの。いつも、このモードにされるたびに思うんですけど、これだとボクを使う意味、ほぼなくないですか?」  どっちつかずな声が、困惑したようにビブロに話しかける。彼女はそれを一蹴した。 「だまらっしゃい、リスタ。私はポップコーンが好きなのです。そもそも、映画館にわざわざ足を運ばずとも、イマドキはおうち映画が、下界での一大ブームメントなのですわよ」 「……はあ」  水晶玉のリスタが、あいまいな相槌をうつ。 「知りませんでしたよ」 「ポップコーン、貴方にもあげるから」 「あ、ありがとです」  水晶玉から、どろり、と、ひとの形をした影がにじみ出てくる。 「おいしいです」  もきゅもきゅと、数粒もらったそれを咀嚼しながら、じゃあ、見ていきましょうか、と言う。  部屋が、光のない真っ暗闇の中に、ゆっくりと落ちていった。        ◇ 「これは神本ですなあ、三上(みがみ)氏」 「うふふふふ……」  とある、大学のキャンパス内で、女子がふたり顔を寄せ合っていた。 「やはり、まごうことなき神絵師ですよなあ……『エモえもバリムシャア』先生は」 「天嶌(てじま)氏、この前、いっしょに一般参加したの、楽しかったですね!」 「こうして、戦利品も手に入ったことですしな」  ひろげた本に、二人、いとしげに視線を寄せる。 「装丁も神ですよ! 紙のイメージとぴったんこです」 「こんど、何の用紙か調べましょうか。専門店、この近くにあるらしいっす。いっしょ、出かけましょうや」 「いいですねえ! おいしいカフェが近くにあるか、調べてみますね」  きゃっきゃっ、とはしゃぎ、周囲をちらり、と見回す。学食の隅の方の席だからか、視線をよこすものはいなかった。 「一応、背後注意のブツですからね。自衛他衛、大事ですぞ」 「わかってますよお」  三上が、にこにことし何気なく、口にする。 「まさに神です、神本です。生まれたことに感謝」 「(わたし)もだよ、本当」 「なあ」  そこに突如、無遠慮な声が割り込んだ。
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