神の薄い本、略して神本

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「ちょっと待て!!」  と、その時、横から大音声が鳴り響いた。  三人が驚いて、そちらを見る。 「が、……ガウラ!」  ヘレラが顔を蒼白にして、叫ぶ。  そこには、眉を吊り上げた、……彼の想い人が立っていた。        ◇ 「おいリスタ! 説明しろッ、早く!」  少し時はさかのぼり、天界。  元凶――ビブロの手下、水晶玉のリスタを絞め上げながら、ガウラが怒りにふるえていた。 「だれが、だれとラブラブだって……? ふざけるのも大概にしろ!!」 「ヒィィ! すみません!」  襟元をつまみ上げられ、ぶらんぶらんと身体を揺らされながら、悲鳴を上げるリスタ。 「そう言われても、しかたがないでしょうよ! うちのあるじ様、すっごく乗り気だったんですもん! 止められやしませんよお!」 「チッ……」  ひとつ舌打ちをし、あわれな下僕をおろす。  ほっとしたように息を吐き、 「でも、よかったですね」 と、生意気にのたまう。 「……どういう意味だ?」  襟元にまた伸びる手を、ゆらりと影状になってかわす。 「いや、だって、バレバレでしょうよ? あからさまにヘレラ様としか話さないし、他のひとたちには目すらくれないし。そういうことだろ、って邪推をされる余地は、アリアリだと思いますけどねえ」 「……」  言葉を詰まらせるガウラ。日焼けしたほほに、一筋の冷や汗が伝う。 「なあ。ひとつ、訊いても良いか」 「何でしょう」  ほほを乱雑な手つきでぬぐい、神妙に尋ねる。 「アイツ――ヘレラにも、バレているのだろうか? その、……俺の気持ちは」 「さあね」  にやりと笑い、リスタは(いら)える。  下界ではちょうど、ヘレラがあるじ様の渡したペンを持って、薄い冊子を開いている女子たちに話しかけているところだった。 「本人さんから話聞いたほうが、早いんじゃないです? 下界にいっちょ、降りましょうや」 「そこにいるのか? 奴は」  ガウラが問う。 「ええ。なにか、女の子と話してますね」 「何!? ……あのクソ野郎、またナンパか」  苦々しく呟き、命令する。 「いいだろう。案内しろ。良い機会だ、ここで、しっかりと分からせてやる」 「りょっす」  ゲートを開き、どうぞ、と軽く一礼する。  地震が起きそうなくらいに強く足を鳴らして、ガウラがそこに踏み入った。        ◇ 「ふん、ふん、ふーん」  亜麻色の髪を、荊棘(けいきょく)の髪飾りで彩った女性が、紛糾するテーブルへと向かっていた。 「あの子たちにも協力してもらわないとね」  あ、また通知。ありがとだわ。  神絵師だ、という返信を、にこにことして眺める。
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