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「ふう……。お褒めの言葉、とてもうれしいわ。お礼に、また、良いものをぶっつけてあげなくっちゃ」
足取りが弾む。
「とりあえず、次は、――ガウラさん✕ヘレラさんの、激アツ本かしらね」
スキップをしながら、彼女――神絵師・『エモえもバリムシャア』ことムーザは、オリジナル達の口論している場に向け、意気揚々と歩み寄っていった。
◇
「……ガウラ」
いまの話、聴いてたのか、と、端麗な細い面を引きつらせながら、ヘレラが問うた。
それに無言でうなずく。薄桃色のひだのような髪が、それにともない静かに揺れる。
「このリスタから、すべて聴いている。ヘレラ。そのペンの話は、……完全なるガセだ。ただの、リスタの愛用している、何の変哲もないペンだ」
「えっ……」
彼の顔がゆがむ。そんな、とちいさく、失望の声がこぼれた。
「せっかく、おまえと、……」
その瞳が、いまにも決壊しそうに潤む。
それを見つめていたガウラの顔が、ふいにゆるんだ。
するどい犬歯が、ヘレラの耳もとに寄る。
「――案ずるな」
囁く。白い肌が、一瞬で炎のように紅く燃える。
「貴様の想いなら、既にうんざりするほど諒解をしている。あとは、……こちらが貴様に、理解して貰う番だ」
そう言って、ヘレラの熱を持った耳に、そっと牙を突き立てる。つう、と、そこから、鮮やかな血が垂れる。
「どちらが、愛らしい兎なのかを、な」
「……ひ、ッ」
ヘレラが口をはくはくと動かし、なにか反論をしようとする。そこから、新しい悲鳴が洩れる。
傷口を舐めずった舌を、べろり、と自身の唇で一周させ、ガウラが微笑んだ。
「そら。首謀者が見ているぞ。見せつけてやろうじゃないか、我が恋人」
「……あっ! あなたは!!」
あっけにとられていたレオナが、ふいに仰天の声を発した。
「エモえもバリムシャア先生……!?」
「そだよー。この前は、新刊買ってくれてありがとうね」
ひらひらとそれに手を振り応え、
「あらためまして」
と彼女が、自己紹介する。
「あたしこそが、エモえもバリムシャアこと、――この子達とおなじ神の、ムーザ。……そして、ガウヘレという新規ジャンルの、最初の神となる者よ」
荊棘の髪飾りを外し、優雅にターンする。彼女なりの、礼の代わりらしかった。
「……ええ!? 本物の、神だったんですか?」
ミケコがあんぐりと口を開ける。そのすぐ横でレオナが、
「ちょいと、待ってください」
と、片手を挙げた。
「なに?」
「これは緊急事態です」
しんとした空気。
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