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◇
「あー、まだたんこぶが痛い」
ビブロが頭頂部を押さえながら、しかめっ面をする。
「あんなガチで怒らなくてもいいじゃない。嘘をついたのは、悪かったけどさあ」
「そりゃあそうでしょうよ。部下のボクにすら、めっちゃくちゃ激イカりでしたからねえ」
ポップコーンをつまみながら、リスタが言う。
「あたしの分がなくなるわ。おやめなさい」
とムーザにバケツの容器を取り上げられ、かなしそうな顔で指を、未練がましく舐める。
「……そういえば、今日はどうして、ここに? ムーザさま」
「愚問ね」
微笑し、懐から、一冊の冊子を取り出す。
彼女が日ごろ出しているのよりも、ずっと質素で薄く、けれど、……明らかすぎるほどに、情念がこもっているのが分かる、冊子を。
「できたのね」
「ええ」
ビブロがべっこうのメガネをくい、と押し上げ、それをまじまじと凝視する。
「どっちから読む?」
「じゃんけんで決めませんこと?」
「勝った方からね?」
「当たり前でしょう」
リスタは最後よ、と言われ、しょぼくれる彼をしり目に、拳を突き出し合う。
――数秒後、華麗なガッツポーズをキメたビブロが意気揚々と、二人の努力の結晶に目を、通し始めた。
◇
……数十分後。
「嗚呼!」
咆哮をあげ、ビブロが床に寝転がってのたうち回る。
「最高ですわァ! ムーザが、私の想定していたカプと左右逆のものをあげてきたときの絶望が、これによってすべて、まっさらに浄化されましたことよ……!」
「悪かったわね」
仏頂面をして、言い訳する。
「結局は、書き手の解釈次第なんだから。あれでビビッときたんだから、しかたないじゃないの」
「まあ、それは否定しないわ。好きなものを好きなように書けるうちが、きっと華ですものね」
しみじみと言い、
「それはそうとあの子達、どうだった? 初の、サークル参加でしょう」
と、興味深げに問うた。
「もちろん、大盛況よ。投稿サイトにアップしたサンプルが好評でね、バッチシひとが集まってたわ。むかしのあたしが見てたら、やっかんじゃうくらいに」
ムーザが思い出し笑いをしながら、返答する。
「次回作の構想も、もうできてるんだって」
「ほんと? 楽しみね」
リスタが言った。
「何だかんだ、四人の運命、本当に変わっちゃってますね」
うまいこと言えた、と胸を張る。温かい笑い。
「お幸せに、ですわね。たとえ逆カプでも」
「そうね。とにかく、最高の一冊だったわ」
表紙に、愛しげに滑る手。
クリアPPが静かに、光を反射していた。
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