神の薄い本、略して神本

8/8
前へ
/8ページ
次へ
       ◇ 「あー、まだたんこぶが痛い」  ビブロが頭頂部を押さえながら、しかめっ面をする。 「あんなガチで怒らなくてもいいじゃない。嘘をついたのは、悪かったけどさあ」 「そりゃあそうでしょうよ。部下のボクにすら、めっちゃくちゃ激イカりでしたからねえ」  ポップコーンをつまみながら、リスタが言う。 「あたしの分がなくなるわ。おやめなさい」 とムーザにバケツの容器を取り上げられ、かなしそうな顔で指を、未練がましく舐める。 「……そういえば、今日はどうして、ここに? ムーザさま」 「愚問ね」  微笑し、懐から、一冊の冊子を取り出す。  彼女が日ごろ出しているのよりも、ずっと質素で薄く、けれど、……明らかすぎるほどに、情念がこもっているのが分かる、冊子を。 「できたのね」 「ええ」  ビブロがべっこうのメガネをくい、と押し上げ、それをまじまじと凝視する。 「どっちから読む?」 「じゃんけんで決めませんこと?」 「勝った方からね?」 「当たり前でしょう」  リスタは最後よ、と言われ、しょぼくれる彼をしり目に、拳を突き出し合う。  ――数秒後、華麗なガッツポーズをキメたビブロが意気揚々と、二人の努力の結晶に目を、通し始めた。        ◇  ……数十分後。 「嗚呼!」  咆哮をあげ、ビブロが床に寝転がってのたうち回る。 「最高ですわァ! ムーザが、私の想定していたカプと左右逆のものをあげてきたときの絶望が、これによってすべて、まっさらに浄化されましたことよ……!」 「悪かったわね」  仏頂面をして、言い訳する。 「結局は、書き手の解釈次第なんだから。あれでビビッときたんだから、しかたないじゃないの」 「まあ、それは否定しないわ。好きなものを好きなように書けるうちが、きっと華ですものね」  しみじみと言い、 「それはそうとあの子達、どうだった? 初の、サークル参加でしょう」 と、興味深げに問うた。 「もちろん、大盛況よ。投稿サイトにアップしたサンプルが好評でね、バッチシひとが集まってたわ。むかしのあたしが見てたら、やっかんじゃうくらいに」  ムーザが思い出し笑いをしながら、返答する。 「次回作の構想も、もうできてるんだって」 「ほんと? 楽しみね」  リスタが言った。 「何だかんだ、四人の運命、本当に変わっちゃってますね」  うまいこと言えた、と胸を張る。温かい笑い。 「お幸せに、ですわね。たとえ逆カプでも」 「そうね。とにかく、最高の一冊だったわ」  表紙に、愛しげに滑る手。  クリアPPが静かに、光を反射していた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加