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数日後、大勢の人が森にやってきた。その中にはジーンさんやリーンの姿もあった。彼らは一様に刃物を持ち、それぞれの手でバロメッツの仔羊達の息の根を止めていった。生物が食肉に変わる瞬間だった。動かなくなった仔羊たちは、ソリのような荷台に乗せられて、そのまま村に運ばれていった。
「仔羊を生かしたまま歩かせた方が良いのでは? ソリを引くにも労力が必要ですし、肉を保存用に加工するのも手間がかかります」
「森で生まれたバロメッツは、森から離れることを本能的に嫌うんですよ。というより、生態として不可能に近い。無理に連れて行こうとすると頑なに抵抗されますから」
手際よく指示を出しながら、先生は村人達の質問に答えていた。
僕は手元に一匹残された仔羊を撫でながら、屠られていくバロメッツ達が視界に入らないように家の裏で蹲っていた。
時折、暇を持て余したリーンが話しかけてきたが、適当にあしらった。とてもそんな気分では無かった。
僕はあんな村に絶対に行きたくない。嬉々としてバロメッツの命を奪った人間がたくさんいる村になんて。
ここがいい。ずっとこの森で暮らしていきたい。ぎゅ、と腕を絡めて抱きしめた仔羊の身体は確かに温かった。僕はそこにある生命を確かに感じながら、村人達の賑やかな声を気にしないように努めた。
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