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二人の距離
「橙子さん、ちゃんと食べてますか?」
毎日毎日二人三脚で頑張ってきたからか、私たちは橙子さん、奏多とラフに呼び合う仲になっていた。だからといって、恋仲というわけではない。あくまでも練習生とスカウトの関係だ。
「奏多が頑張ってるから、私も鍛えてるだけよ」
本当は、前の職場で貯めたお金を切り崩して彼に投資している。実はここ最近、私の経済状況はかなり手厳しい。食費を削りに削っているから自然と痩せていくのだ。それを彼が知ってしまったら、レッスンに身が入らなくなるのは目に見えている。だから私は咄嗟に嘘をついた。
語学のレッスンもさまになり、ダンスのセンスもメキメキと上がった彼を、いよいよオーディションに参加させる。
「いよいよね、おどおどしちゃ駄目よ。奏多、あなたはもう大丈夫。だれよりも輝いてるんだから」
「……」
「どうしたのよ」
あの時の門前払いが未だ心につっかえていているのか、少し怯んでいるように見える。ここは私が、彼の不安を上手く取り除こう。
「大丈夫、ほらちゃんと見て」
私は街のショーウィンドウに映る彼を指差した。
「あなたは変わったの。努力して本来の光を取り戻したの。その光を生かすも殺すも、あなた次第よ。あなたはどうしたいの?」
「僕は……橙子さん、僕、頑張ってきます‼︎‼︎」
煌々とした光がしっかりと彼を包んでいる。アステリア、どうか彼をこのまま輝かせて。彼が負けないよう、どうか見守っていて。
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