二人の距離

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「だ、大丈夫大丈夫っ」  あぁ、彼の光が(まばゆ)い。この光をずっと側で浴びていたい。  大丈夫と口で言いながらも、この先を期待してしまうこの気持ち、何とかならないものか。いや、ちょっと待って。彼がアステリアの魂を宿しているなら、私たちは結ばれるべきであって、二度と離れるべきでは無いのでは。  そんな考えが余儀って、私はフラついた素振りを見せ、彼に甘えようと身体を預けた。そこまでは良かったものの、ちょうど良いタイミングで彼の携帯のコールが鳴り響いた。全くもう。 「あ‼︎‼︎ 橙子さんっ、オーディション先からです‼︎‼︎」 「えっ、もう⁉︎ と、とりあえず出てっ、早くっ‼︎‼︎」  合否の連絡に違いないが、この瞬間が1番緊張する。毎度毎度落選の連絡を受け続けて来たアイドル殺しの異名を持つ私。彼のポテンシャルの高さは誰よりも分かっているし、大丈夫と言い続けてきたけれど、ここにきて不安がのしかかってきた。  聞くのも怖いし聞かないわけにもいかない。私は猛烈な緊張で一旦お手洗いに駆け込んだ。あぁなんとも情け無い。この情けなさを飲み込める魔力が残されていたら良かったのに。 「橙子さーんっ‼︎‼︎」  気を取り直してお手洗いから出ると、目線の先には満面の笑みで手を振る彼の姿があった。 「合格したのっ⁉︎」 「はいっ‼︎‼︎ 多国籍グループの一員として、僕を迎えたいって‼︎‼︎」  あぁ、この光。この光をずっと待っていた。ただ、芸能界は甘くない、むごい程厳しい世界だ。輝けるのは一握りで、いつの間にか知らない間に消えていく子が殆どだ。  きっとこの先、厳しい事を山程経験するだろうけど、この光が失われないよう、私はマネージャーとして全力を尽くして彼を守り通す。  あの時の二の舞にはならない。絶対に彼をスーパーアイドルとして輝かせてみせる。  
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